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『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』感想 完全原作再現と進化したポケモンの感情表現

2019年7月25日

引用元:『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』キービジュアル

 

『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』を観てきました。

映画ポケモンの原点にして頂点との呼び声も未だ名高い『ミュウツーの逆襲』が、20年の時を超えてフル3DCGでリメイクされた今作。

20年の積み重ねと思い出があるからこそ最高に楽しめる映画でもありますが、逆にその積み重ねがあるからこそ見たくない映画でもあると思います。

この記事では当時ミュウツーの逆襲を映画館で観ていた子供だった僕が、このリメイクが原作と比べてどうだったのかを良いところ中心、少し悪いところを含めて明け透けに書いて行きます。

「この記事を読んで観たくなった」と思ってもらえるような内容を目指して書いて行きます。よろしければお付き合い下さい。

原作完全再現へのこだわり

リメイク作品に当たって最も危惧されることの1つに「今風にストーリーやキャラクターがアレンジされてしまい、思い出を破壊されてしまうこと」が挙げられます。

この点、本作は原作の完全再現を主題に据えているようで、変更点を探す方が難しいと言うほどそのままの内容で進みます。

ストーリーの大筋は変わっていない…などではなく、カメラワークや構図、演出、台詞の1つ1つに至るまで当時のものを可能な限りそのまま活用した映画に仕上がっています。サブキャラの声優には若干変更がありますが、キャスティングもほぼそのまま。ナレーションは石塚運昇さんでレイモンドも続投という奇跡のこだわり。

正に「『ミュウツーの逆襲』を今の技術で3D化したらこうなる」ということだけを見せたい作品であり、リアルタイム世代のファンであればあるほど、映像面での変化を楽しむことができるはずです。

僕自身この20年で何度も見直し、シーンどころか細部の台詞まで大まかに記憶している身ですが、それでここまで安心感を持って観られるとは…という印象でした。

すごく個人的なことを言うと「随分としつけの悪い…リザードンだな」と余裕たっぷりで言うミュウツーが好きだったので、そこが少し感情的な言い方になっているのが気になったくらい。それくらい細かい指摘になるくらいには原作に忠実です。

その他でもミュウツーがほんの少し感情的に見えるような演技になっているのですが、これにも狙いがあるのではと感じました。詳細は後述します。

3DCGの良いところ・悪いところ

今作はフル3DCGリメイクですが、そもそもこの3D化を行うということが作品的にどうなのか…と思う方も多いと思います。あのセル画のイメージのまま思い出にしておきたいという気持ちも分かります。

ですのでこの項では、良いところだけではなく悪いところも書いて行きます。鑑賞前の参考にして下さい。

空気感の変化

3D化に当たって、最も問題となっていたのが映像的な勢いの低減と空気感の変化です。

原作『ミュウツーの逆襲』はとにかく不気味な画面作りが秀逸な作品です。恐ろしさというよりも不穏な空気感が全編に渡って作品を包んでいて、胸の辺りに常にゾワゾワとしたものがある。

ミュウツーという存在の異質さを作品全体が伝えてくるような創り。その緊迫感が潤滑剤となり、単純なストーリーと深いテーマを上手く混合させることに成功していたと言えるでしょう。

本作では、残念ながらその不気味さという部分が原作からかなり削がれてしまっています。3DCGの忠実性やリアリティではあのセル画独特の空気感の再現には限界があり、そのせいで序盤は特にのっぺりとした展開に見えてしまうきらいがあります。

しかし、あの不気味さは当代のセル画アニメの荒々しさや硬質感によってもたらされていたところがあり、恐らく今改めてセル画でリメイクしてもあの雰囲気は出せないはずです。3DCGになったから駄目になった…というより時代(流行)の変化が作品と適合していない個所がある…と言うべきかもしれません。

こういった問題が発生するので、リメイクの場合は時代や媒体に合わせて作品感の変更が必要であると判断されがちなのですが、本作はそういった時代錯誤になるリスクを承知の上で完全再現を目指している作品というのが最大のポイントだと思います。

改めて見直して「こんなに薄い話だったっけ?」と思ってしまった場合の原因は、恐らくこの質感の変化にあると考えています。

臨場感や迫力 演出力の強化

逆にフル3DCGリメイクによって、臨場感や画面の迫力、スピード感や演出力は増強されたと感じました。

セル画のダイナミックさも良いですが、3Dの繊細かつスタイリッシュな映像演出にはやはり時代の進化を感じさせられるもの。

戦闘シーンはもちろんのこと、プロローグでサカキに反旗を翻し「逆襲」を謳うミュウツーの立ち姿などは、原作の荘厳な立ち姿とはまた違う、今の時代にしか出せないカッコ良さがあったと感じました。

また施設を破壊し爆発炎上させるミュウツーの圧倒的さやアーマードミュウツーの拘束表現などは3Dならではのリアリティがありました。ミュウツーの規格外感を"強さ"で表現することにおいては、原作を上回っていたと思います。原作は"存在"の異質性を強調している作品だったと思いますので。

こういった観点から、時代や技術の違いにより見せ方の違いが作品感に強く反映されることが分かり、同じ内容で「どう違って見えるのか」を楽しむ意識を持って行くと、原作への思い出が強い方もより楽しめるのではないかと思います。

製作陣もこういった特性や弱点を把握して演出面を若干変更していると感じられ「原作の画作りによる緊迫感がないと成立しない」と判断された部分において、見せ方の調整が行われている部分はあります。具体的に言うと海を渡るシーンですね。

個人的に「この質感だと流石に厳しいのでは」と思っていた個所の変更だったこともあり、変更を加える必要がある"どうしても"という部分の吟味が余念なく行われているのが感じられて、逆に好印象でした。内容に変化はありませんが、是非気にして見てみてほしいですね。

ポケモンの感情表現が大きく進化

最後に、3DCG化によって「何がEVOLUTIONしたのか」を書いて行きます。

技術的な精度により、そもそもあまり3Dの出来が良くないのではないか…などと嘯かれる今作ですが、ポケモンの3Dについては文句のつけようがないと思います。人間はある程度諦めましょう。動いたらさほど気にならないです。

特に『ミュウツーの逆襲』の肝とも言える、後半のオリジナルVSコピーの戦いの部分は想像を超えた素晴らしさがありました。

ポケモンというのは実在しない異形存在なので、絵で描画するとどうしても感情表現に限界があります。表情をつけたり細かい所作をつけての演出は、当時の映像技術ではできないことの方が多かったはずです。

本作は完全3DCG化によりポケモン一種類ずつの動きが個性的になった上に、そのポケモンに応じた感情表現や細かい表情をつけることができるようになり、後半の戦いの悲痛さやそれぞれのポケモンが抱えている想いなどが原作よりダイレクトに伝わる画面作りに。

3Dならではの情感溢れる演出により、ポケモンを通して大変細やかな情動が無数に伝わってくるようになり、この点は短い時間で原作以上の情報を盛り込み、大きな盛り上がりを生むことに成功していました。

ポケモン達の豊かな感情表現で、より高く積み上がったところで迎えるサトシの石化シーン、それを目覚めさせようとするピカチュウの慟哭は必見。原作よりオーバーになっていましたが、ただ泣かせるために盛るのではなく、しっかりそこに至る道筋が演出されているからこそより印象的なシーンに仕上がっていました。

このポケモンの感情表現の豊かさは、ミュウツーがほんの少し感情的に見えるシーンが多いことにも関係していると感じています。

原作では無機質さを全面に押し出し、何を考えているのか分からない不気味な存在として在ったミュウツーでしたが、本作ではアンニュイな感情表現が可能になったことから「生者」としての側面が強調された感覚があります。

そのため、作られた存在であったとしても感情があり「皆が同じように生きている」という『ミュウツーの逆襲』の中核を担うテーマ性に沿った存在感を与えられるようになったことで、それが少しだけ演技に反映されているように感じました。

もちろん、そもそものミュウツーのイメージを損なうような変更はなく、本当に細やかな演技による違いなため、多くの人にとってはイメージ齟齬の問題となるとは思えません。

しかしポケモンの感情表現が可能になったことで、より深く表現したかったテーマ性を補強する意図はあったように思います。彼の淡々とした部分以外を映像に落とし込みやすくなったのだと思います。

現代だからこそできる3DCG化ならではの、当時できなかったより深い作品感の体現。「EVOLUTION」というタイトルを冠した理由は、ここにあったと僕は捉えました。

おわりに

『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』は原作『ミュウツーの逆襲』に多大なリスペクトを込められた作品です。

古いところは古いまま残し、それが少し今の映画としては物足りなく見えたり、原作の質感を100%は表現できないとしても、当時の思い出を限りなく尊重する形で創られた作品。ポケモンを愛し、ミュウツーの逆襲という作品を今一度見たいと思うのがどういう層なのか、ということがしっかり煮詰められています。

正直、初めて見る人向けの映画ではありません。原作は、当時展開されていたTVアニメの情報を背景情報に据えているからこそ、あの短時間でミュウツーの強さや設定に説得力を持たせることができていました。

それを知らずに見ると、淡白に見えるところは多いでしょう。しかもそれをわざわざ確認してから見に来るには時間が経ちすぎていることを考えても、現代で100%楽しめる人の総数が決して多いとは思えません。

そのような状況にありながら万人向けに内容をリメイクすることなく、原作の完全再現を行うという真っ向勝負で製作された。『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』はそんな挑戦的な映画です。

だからこそ、当時の思い出を持っている人達には是非この映画を観に行ってほしいし、違いを探して悪いとこを見てモヤッとするのではなく、それを楽しむ心を持ってこの映画の良いところを見てあげてほしいと思います。

我々のためにここまで誠実に、一生懸命この作品を打ち出してくれた製作スタッフの方々に、ありがとうと言いたいです。

初めて見たあの日から20年。
『ミュウツーの逆襲』を今のクオリティで、新しい形で見れて幸せでした。

まだの方は、是非劇場でこの体験をしてみて下さい。
お読み頂きありがとうございました。

  • この記事を書いた人

はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。美少女よりイケメンを好み、最近は主に女性向け作品の感想執筆を行っている。キャラの心情読解を得意とし、1人1人に公平に寄り添った感想で人気を博す。その熱量は初見やアニメオリジナル作品においても発揮され、某アニメでは監督から感謝のツイートを受け取ったことも。

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