「大丈夫か明星!」
「分かったのか犯人は?」
「いや…」
突如としてSSの舞台上に流れた"あの明星"の告発は、イベントその物を中断させるほどの衝撃を走らせました。その影響は会場だけに留まらず、世間全体がその動向に注目しているようです。乞食めいた生配信者の存在がその注目度を暗示しているかのよう。
観客席で訳知り顔で考え込む流星隊の守沢千秋は、DDDの際にスバルに道を良き先輩でもあります。一連の事情についても把握しているのかもしれません。その上でスバルとどう接するべきかに想いを馳せる千秋の姿は、作中であまり見せたことがないほどに真剣な表情でした。
当事者となったTrickstarのメンバーは、当然スバルを全力で支えることを選びます。彼の父親が犯したという犯罪行為は、根拠が不確かであることが共通の認識としてあるようです。さらに「その息子も同じ犯罪を犯している」のは間違いなくフェイクであり、卑劣な印象操作だと言わざるを得ません。
しかし、ないものを証明することはできません。
スバルは今正に、文字通りの"悪魔の証明"を強いられています。
親子関係を考えれば、スバルは喧伝されたフェイクを払拭するのが難しい立場でしょう。それを考慮した大胆かつ最低な方法論をぶつけられてしまいました。
落ち込みダメージを受けるスバルを見て、逸る気持ちを抑えられない北斗と真。内容その物は自分達に無関係とは言え、メンバーが受けた仕打ちに対して平静でいられるわけがありません。
「良いか皆、まずは深呼吸な」
そんな中でその空気感を察知して、まずは努めて冷静なやり取りが可能な環境を整えるのが衣更真緒です。場の状況を読むことについて、彼はTrickstarの屋台骨として常に能力を発揮してくれています。
ある程度の落ち着きを取り戻したところで、彼らの話し合いが始まります。
隠された"明星"の過去
「ごめん、俺のせいでこんなことになっちゃって…」
ようやく口を開けたスバルが発したのは、悲痛なトーンと表情の謝罪の言葉でした。
同じ立場になって考えれば、まず誰だってその言葉を口にするのが自然な状況。でもスバルは何も悪いことをしていないし、過去のことは不透明なまま。こんな理不尽を受ける言われはありません。
だからと言って、いえ、だからこそ中途半端な励ましが今のスバルを余計傷付けかねないことも、彼らはきっと感じている。「気にするな」以上の言葉をかけることはできなかったのだと思います。
「氷鷹くん…」
そこで話を切り出すのが遊木真でした。
北斗の父親とスバルの父親はアイドル時代に親友だった。であれば、過去の知識を持っているのではないかと彼に問います。
「さっきの怪文書みたいな映像、あれには少しでも事実が含まれてるの?」
スバルの心中を慮れば、その話題は今出すべきではありません。ですが、今の彼らには一刻の猶予もない。ちょっと落ち着いてからゆっくり話をしよう…というわけには行かないのです。
「本当のことを、知っておきたいんだ」
スバルのことを本当に考えるのなら、事実確認は絶対に必要。その上で取れる最善の策を即座に取らなければなりません。
「明星くんを守るために…」
何か1つでも嘘や偽りがあれば、逆に自分達が不利になるかもしれない。本当に犯罪行為があったのなら、スバルを救うために取った行動が犯罪者をかばうことになるかもしれない。そうなれば、全員が揃って共倒れということになりかねません。
その冷静な状況判断と必要な情報を総合して考えようとするブレイン的な立ち回りは、このSSまでに真がずっと力を入れて臨んできたことです。
真緒の気持ちから状況を読み環境を整える能力と、真の事実から状況を読み次手を整える能力があって、この有事を乗り越えるパフォーマンスができている。彼らの成長が繋がって、今のスバルを支えられている。そう感じさせられます。
「それは…俺から話すよ」
そんな皆が自分のために必要なことを考えて、最善を選ぼうと必死に努力してくれている。その気持ちを汲めない明星スバルではありません。
曖昧すぎる父親の記憶
「父さんが本当はどんな人だったのか分からないけど――」
"自分にとっては"お星様みたいなキラキラ人だった。
スバルはそう語り始めました。
幼い頃に大きな事件を経験して父親と離れ離れになった彼は、子供である自分に見せていた姿と、外の仕事の場で見せていた姿が全然別のものであるかもしれないことに想像が巡っているようです。
だからスバル自身も父親を全肯定できない立場にある。「父さんはそんな人ではない」と言い切れないところがあって、それがまたどこかで彼の心を苦しめてしまっている。大人に近付いていくというのは、つくづく残酷なものであると思わされます。
「…俺のアイドルだった」
思い出の中で輝く父親の姿は常に影が差していて、顔も姿もおぼろげなまま。記憶の中でさえ曖昧なのに、ただ彼がキラキラと輝いていることだけは覚えている。それだけが今の明星スバルが持つ、父親を絶対的に信頼できる部分なのでしょう。
幼少期のスバルが家で待っている時に目と耳に飛び込んできた臨時ニュース。それは自分の父親のライブ中に起きたとされる事故の話でした。
「アナウンサーがこう言ってた…」
父親の姿には依然影がかかったまま。
残っている冊子の写真さえ背中越しでその顔は見られない。なのに、嫌なニュースを聞いたその瞬間の記憶は、極めて鮮明に再生される。
「父さんがステージで人を…殺したって」
それだけ大きな心の傷が、幼いスバルの心に焼き付いてしまった…ということだと思います。
明星スバルを支える者
「ひ、人を殺したって…」
「記録としては…事故になっている」
詳細を知る北斗は、間髪入れずにその内容のフォローに入ります。熱狂的なファンが引き起こしてしまった不幸な事故。それでもファンを無下にしなかったであろう明星父の行いは、最悪の形で彼に降り注ぐ結果となりました。
その事故を皮切りに明るみに出た犯罪行為の数々。それが引き金となり、「記録上は事故」であっても世間の印象は「殺人」になってしまったようです。
スバルの人柄を考えれば、父親の犯罪行為も全て何者かがでっち上げた虚偽であると考えるのが自然です。実際、献金や暴力行為などは、現行犯でなければ口裏を合わせることで証拠を捏造することも不可能ではありません。ですが「上がってきている以上は、それを否定するのも難しい」と言うところでしょう。
"史上最悪のアイドル"の汚名を背負わされ、スバル達は"あの明星"の家族というだけで白い目で見られ、本人は釈明の機会も与えられずに獄中で非業の死を遂げる。明星家は、あまりにも悲痛すぎる運命に翻弄されることになったのです。
「そうして思ったんだ。夢ノ咲学院に入って、父さんみたいなアイドルになりたいって!」
けれど明星スバルは強かった。
そんな現実に直面してなお、彼はアイドルを目指したいと思っていたから。
普通に考えれば、スバルのような境遇に立たされれば、アイドルなんて目にも入れたくないくらい恨めしい存在になると思います。その役割のせいで自分は大好きな父親を失い、家族の人生は台無しになったと考えるはずだからです。
彼はそれとは逆に、自分もアイドルになりたいと考える少年でした。キラキラ輝く尊い何かを世界中に届けたい。父親の無念と夢を引き継いで、自身が同じようにステージで皆に笑顔を届けたいと、前向きに"光"を目指せる心を持っていました。
それはきっと、それだけ彼の父親が"光"の体現者として在ったことに他ならないし、彼の父親が自分を着飾ることなく真摯に"アイドル"であったことの証明でもあると思います。明星スバルがアイドルを目指したことが、彼ら親子にとっての希望その物になったのです。
憧れだけで人は何かを成し遂げることはできないけれど、憧れがなければ人は"光"を目指して行動できない。どんな事情があってもそのキッカケをくれた父親は、スバルにとって最高の父親で、同時に父親にとっても最高の息子になったと思います。
4人揃ってTrickstar
「それなのに…今はステージが怖い…!」
自分にとって最大の拠り所だった父親が再び世間で忌諱の目を向けられ、そのまま今の自分に襲い掛かってきている。覆い隠していた見たくない現実が、スバルの希望を反転させて心を苦しめます。
「誰だってそうだ!」
その彼に勇ましく応えるのが氷鷹北斗です。
同じ著名な両親を持つ者として、父親同士が親友でもあった友として、最もスバルの心に寄り添える存在である北斗。彼の存在が、今のスバルを救う鍵を握っていました。
冷静沈着で真面目そうに見える北斗ですが、実際は自分の感情にまっすぐで真剣。いつも仲間のことを深く考えている情熱的な彼だからこそ、Trickstarのリーダーを務めることができていると思います。
「北斗…」
「明星!俺とお前は立場が似ている!」
北斗もまた、事情は違えど両親絡みで心を束縛されることが多い境遇。DDDの際は、スバルの気持ちに心を動かされた側でした。今度は俺がお前の助けになる番だと言わんばかりに、スバルに駆け寄ります。
「お前は独りじゃない。皆味方だ!」
真緒と真が整えてくれた状況と環境で、北斗が前のめりに気持ちをぶつけていく。3人がそれぞれの長所を発揮して立ち向かっているから、スバルを救うことができる。
その北斗のまっすぐな気持ちがこじ開けたスバルの心に、真緒と真も自分達の気持ちを運んでいきます。
カメラの前が苦手でコンプレックスに怯えていた真は、Trickstarに加入してそれを乗り越えてここまで来た。少しずつの変化は周りには伝わり辛いけれど、それが積み重なって生まれた大きな変化は他の3人が支えてくれたから生まれたものである。
大きな理由や目的もなくアイドルを目指した真緒は、そんな自分だからTrickstarという抱える物が多いメンバーの肩の力を抜いてあげることができてきたと思っている。平凡な自分が"輝く何か"を手にできたのは、皆が一緒に歩んでくれたからだと感じている。
それぞれが苦しい時、悩んでいる時に、いつも「Trickstar」に自分達は支えられてきた。スバルも「自分ばかりが…」と今は思うかもしれないが、そうじゃない。皆が皆このメンバーに支えられてここまで歩んできたと、真摯にスバルに伝えます。
Trickstarは4人揃ってTrickstarである。
短いやり取りからも、4人のその気持ちを感じることができるのです。
「ステージに上がるのが怖いなら…スバル、俺が"懐中電灯"として、お前の足元を照らしてやる!」
でも懐中電灯を根に持ちすぎるのはやめろ。笑うだろ。
心に寄り添ってくれる先輩
「――失礼する!」
そして彼のそばにいるのはTrickstarだけではありません。
「水臭いぞ明星!困ったことがあったら呼べと言っただろう!」
この場に飛び込んできたのは、スバルの良き先輩である守沢千秋!彼が率いる流星隊全員を引き連れて颯爽と登場!
スバルのことをよく知る千秋からすれば、今のスバルにかけるアプローチには様々な選択肢があったことと思います。声をかける、かけない。かけるならどうかけるか、など分岐点は無限にあったはず。
その中で千秋が選んだのは「いつも通りに明星に接すること」だったのではないでしょうか。
現在のSSにおいての当事者はTrickstarであり、自分は言わば部外者の1人にすぎない。
そういった立場の違いはありながらも、最もスバルを理解してあげられる1人の人間としてできることを考えた時、自然に振る舞うことがベストであると彼は思ったと解釈しています。
その"いつも通り"が、Trickstarによって解きほぐされたスバルの心に沁み渡ったのは言うまでもありません。遅れて現れて美味しいところを持っていくねぇ!流石ヒーロー!
「…守沢先輩、流星隊の皆。少しの間、明星のことを頼んでも良いか?」
新たにスバルの心の拠り所となれる存在が現れたことで、北斗は一旦彼らにスバルのことを任せます。Trickstarにはこの場を切り抜けるため、他にもやらなければならないことがあります。それもまた、彼らにしかできないことなのです。
彼らが向かう先。
それは、仇敵であるEdenの控え室です。