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【ミリしら超感想】『A3!』 第12話 描かれる「克服のSUMMER」信頼と感謝の千秋楽へ

2020年6月30日

受け継いだ意志

日をまたいで千秋楽を迎えた彼らの元にやってきたのは、MANKAIカンパニー春組の仲間たちでした。

夏組のメンバーとの直接的な交流はほぼ描かれていない春組ですが、きっとアニメの裏側では個別のやり取りも存在しているのでしょう。春組の中でも、至と真澄の仲が少し近付いたようなやり取りが見られて少し微笑ましく思いました。

「天馬くん、調子はどう?」

その中で天馬と同じ劇団の座長として、そして心を動かすほどの芝居をした役者として志を共有した咲也が、彼に何気なく声をかけます。

「…座長って重いな」

MANKAIカンパニーに入って、初めて本物の演劇の世界を体感した天馬。演技の実力があるからとイキってリーダーに立候補したとは言え、それも半分は虚勢だったことと今では思えます。

トラウマを抱え不安でいっぱいの中で、「俺はできる、俺はできる」と自分に言い聞かせて稽古に臨んでいたのかもしれません。けれどそうしているうちにメンバーと本当の意味で打ち解け、彼はこの期間で名実ともに完全な座長となりました。

そのおかげで、背負う者の気持ちを人一倍感じられるようになったはず。演技未経験の人が大半で、自分よりも年上の人もいる中での座長。人の上に立つのは、大変に難しい。

「ここまでやってみて、お前を改めて尊敬した」

演技の素地がある=敬意を向けられる立場である自分と違って、何もない中で佐久間咲也はその立場をやり遂げた。それはまた演技とは別に尊敬に値することである。それがきっと自分の心を動かす表現にも繋がったのだと、天馬は感じたのかもしれません。当の本人は、その凄さに無自覚なようではありますが。

The Show Must Go On

「千秋楽...お前も恐かったか?」

役者として以上に、同じ劇団の先輩として、1つの舞台をやり遂げた座長の先輩として、天馬は咲也に問いかけます。もう自分の本音を覆い隠して、強がるようなことはありません。

「…そうだね、正直言うと恐かったよ…すごく」

そんな天馬に咲也も当時の自分のことを隠さずに伝えます。

「でも…同じくらいワクワクもしてた!」

正直に対等に。彼らはありのままの感情をさらけ出して、語り合う。同じ想いを共有できるMANKAIカンパニーの演劇人として。

「そうか…俺もだ」

過去のトラウマを乗り越えて、天馬が抱くのは千秋楽への強い感情です。その公演内容が数ヶ月かけて挑んできた演目の完全な"成功"を左右する、大事な最終公演。それが千秋楽です。恐くもあり楽しみでもあるのは、誰もにとってそうに違いありません。

終わり良ければ全て良しと言いますが、悪ければそれだけ後悔が残ります。そしてその公演が終われば、その役を演じて同じ舞台を創り上げることはもうないかもしれない。そんな特別中の特別の一回です。

「Show Must Go On…。天馬くんなら、きっとできるよ」
「あぁ、やり遂げてみせる」

経験者は語り、未来へ希望を託す。
一度幕が開いたショーを止めるわけにはいかない。何があろうと最後まで演り切る。その感情が巻き起こす大きな感動を、観客へと届けることが最後の彼らの役目です。

いよいよ千秋楽へ。
受け継いだものを観客に届ける大一番が始まります。

"最高"の千秋楽へ

千秋楽は一部のメンバーにとって様々な意味で特別な公演となりました。観客の中に、彼らにとって特に思い入れの強い人達が勢揃いしていたからです。

幸は自分のことを馬鹿にした同級生。
挑発のつもりで渡したチケットを使って、彼らは本当に舞台へと足を運びました。どんな感情による行動なのかは我々の知るところではありませんが、それは幸にとっても同じことです。

椋の元にはかつての部活仲間たち。
自分から誘った相手ではありますが、かつての自分を知る者に新しい自分を見せることは大変に勇気がいることだと思います。

何より、自分をどういう目で見ているか分からない客が存在しているということは、それだけで役者の士気と集中力を大きく削ぎ落とすもの。千秋楽の緊張感も相まって、今までにない不安感が彼らを苛んだに違いありません。

あれだけ堂々としていた幸はその事実だけで身体がこわばり、今までできていた芝居も上手くできなくなりました。特に幸は開幕を1人で演じるキャラだけに、状況に飲まれやすい環境下にあります。

「なーにボーっとしてんだシェヘラザード!」

そこに飛び込んできたアリババは、今までにない動きでシェヘラザードの肩を叩きます。想定しない流れによろめく幸。天馬はこのタイミングでアドリブを入れて、幸の乱れた心を芝居の中で取り戻そうとしたのです。

かく言う天馬も今回の舞台に難色を呈した両親が観に来ている状況。精神的な状態は2人と大差ないか、むしろより大きな影を抱えているはずでした。

それでも天馬は、アドリブというリスクの高い方法でメンバーを炊きつけることを選びました。演技に人生を捧げてきた彼らしい交流の形だったのではないでしょうか。

信頼が魅せる輝き

天馬の意図に気付いた幸も、しっかりと芝居で天馬のアドリブに対応。初演とは全く逆の光景が展開され、今度は天馬が幸を救うところから公演はスタートしました。

「ちゃんと付いてきたなぁ?」
「当たり前。オーディションの日から今日まで、どれだけ俺様天馬様のワガママに付き合ってきたと思ってるの?」

千秋楽はそのメンバーでその公演を行う最後の機会。同じ演目を演じることがあったとしても、同じ内容を全く同じメンバーで行えるとは限りません。よって千秋楽は、今いる役者たちにとって本当に最後の公演でもあり、同時に最大の遊び場でもあります。

その中でさえも他人を巻き込んだアドリブを連発するのは難しいのが現実で。役者としての力量と役作りへの信頼、そして人間としての信頼までもが揃って、初めて可能になることです。

「ちょ、テンテン…!アドリブばっかり…!」
「もう少し加減するかぁ?」
「まっさかぁ!」

それでも天馬はこの千秋楽で終始アドリブを連発し続けます。それは極めてリスクの高い行いです。しかし全員がそれに応えてくれる役者ならば、その時その場でしか引き出せない"最高"の輝きが体現される選択です。

「こんな超楽しいこと、やめるわけないっしょ!」

打合せなしの現場での無茶振りを楽しいと乗りこなす一成が、その輝きを象徴しているようでした。

「最初は…想像もできなかった。僕がこんなにたくさんの人前で、舞台に立てるなんて…」

アドリブで天馬を助けた椋が、今度は天馬と共にアドリブで会場を沸かせます。

「勇気を出して、お芝居を始めて良かった!」

観客に誰がいようと関係ない。今この場この時間で行われているこの演目が、ただ楽しくて仕方がない。そんな気持ちだけを全面に出して、彼はシンドバッドを演じ続けます。

「俺は…その勇気に救われたんだ。舞台は恐いものじゃないって、お前たちが教えてくれた」

未経験の演技のイロハも知らないようなメンバーと、最初は半ば嫌々でユニットを組むことになった天馬。

いつしか彼らのその前向きな気持ちと粘り強さに、支えられるようにもなっていました。

彼らと共に乗り越えてきたからこそ、舞台上で自分からアドリブというパスを回せるまでに進化を遂げた。この一連の行動は、リーダーとして見せる彼の感謝の気持ちの表現に他なりません。

「じいちゃん…!もし生きてたら…俺のお芝居、喜んでくれるかな?」

11話から三角の口から語られた祖父の存在。このアニメではその中身が語られることはありませんでしたが、彼が舞台役者として優れていることと無関係ではないのでしょう。

「喜んでくれるに決まってる。三角が…皆がこんなにも笑顔なんだから!」

演技は上手い下手だけで語れるものではない。技術以上に全力で挑む姿に人は心を打たれるし、それは時として技術を上回る強烈な印象に繋がることもある。

舞台演劇が映像やアニメーションに確実に勝っているところがあるとすれば、その演者の気持ちと想いが直に観客に伝わることです。それを体現することが、舞台の上に立つ最大の意義になると思います。

天馬も三角の祖父のことを、まだ詳細に聞いて知っているわけではないはず。けれどその人物が演劇を愛する者であったのならば、今の三角の芝居に心打たれないわけがない。そう確信を持って言えるほどに、今の彼らは強い気持ちを舞台上で表現しているのです。

「ありがとう」

「――お前たちと舞台に立てて良かった」

千秋楽の幕が開く前に、天馬は自分の全ての気持ちを隠すことなくメンバーに伝えました。

「お前たちのことは大切な仲間で、友達だと思ってる」

なかなか気恥ずかしくて本人に伝えられないような言葉も、言えなかった謝罪も、千秋楽の前に全てを伝えて彼らと向き合いました。それを笑うことも無下にすることもなく、真剣に聴き入れる仲間たちの姿もまた印象的なものでした。

「ラスト、皆で最高の芝居がしたい。今…この瞬間の俺たちにしかできない最高の芝居を。…付いて来てくれるか?」

天馬はその言葉通り、最高の芝居のために舞台上を駆けずり回りました。そしてそこにいた全員がその天馬の言葉を実現するために、自分たちができる最高の演技と芝居で応えたのです。

それが転じて抱えるものと共に挑んだ幸や椋の心を解きほぐすことにも繋がって。

それぞれが持つ克服すべき存在を、皆の力で全て乗り越えることに成功しました。

全てが終わって、あとは最後の台詞を残すのみ。初演からよりコミカルさを増した天馬の台詞が場内に響き渡り、千秋楽は最高の形で無事に終了を迎えます。

「ありがとう…アリババ」

その最後にシェヘラザードが付け足したほんの少しの言葉。それは、キャラクターとしての彼女が最後に発するものとして自然でした。

「え?」

にも関わらず、アリババは…皇天馬は振り向いた。
あの瞬間、彼は演技ではなく素の彼として反応した。そのように見えました。

そうなったのはきっと、シェヘラザードとアリババを通して向けられた、瑠璃川幸から皇天馬への感情だと彼が感じたからでしょう。

そのやり取りも含めてその場にいた観客は感動。結果は今までにないほど大きな拍手とスタンディングオベーションで表現されました。

「なんかもう…感動しすぎて僕…!」
「てかテンテン、アドリブ多すぎ!」
「付いて来てくれって言っただろ?」
「楽しかったね!演劇は面白い!」

最高の演目を最高のメンバーで、最高の形で終えられた。その最高の嬉しさに、彼らは思い思いの言葉を並べて喜びました。今が人生で最高の瞬間だと、そう言わんばかりの勢いでした。

「…………」

1人だけ何も言葉を発さない幸に向かって、天馬は先ほど向けられた台詞の内容を噛み締めます。幸が柄にもなくまっすぐ自分に気持ちを向けてきたのだから、自分も一言くらい返しておいても良いだろう。そう考えて彼もまた笑顔で口を開きます。

「ありがとな…幸」
「キモ」

「ッ!お前なァ!!?」

舞台が終わればすぐにまた元の彼らに。
その中でも深まった絆は本物で、分かち合った感情も決して無くなることはない。

夏組の旗揚げ公演「Water me!~我らが水を求めて~」はこうして幕を閉じました。

おわりに

それぞれが乗り越えるべき壁を乗り越えて、天馬も両親の理解を得られて、ひとまずは大団円となった夏組の物語。

演劇は劇団員の波長や価値観が合わず、癖の強い人間が多く存在することから衝突が絶えない文化です。まともな人間は(部活動などを除けば)演劇なんてやりたがらないからです。

どんなに始まる前は仲が良い相手でも、深い付き合いをするとこじれてしまうこともあります。公演をやり遂げずに空中分解する劇団も少なくなく、上手く行くこと自体がもはや凄いことだと言っても良いレベルです。

そんな背景があるからこそ、夏組の「自我の強いメンバーのせいでギスギスした関係から始まって、ぶつかり合いながらも絆を深めて本番を迎える」という結末は、舞台演劇の理想その物でもあると思います。

現実はそう簡単には行かないのかもしれません。でも、こういう形を皆が目指せたらいい。そんな希望がたくさん詰まった物語を彼らは見せてくれたと思います。

そして春組の作り上げた土台の上で、ひたすらに若い心をぶつけ合う夏組。オーソドックスな少年漫画的展開で胸を熱くさせてくれた彼らが現れたことで、相対的にあんなに幼く見えた春組が大人びて見える。最終話は劇団内での系譜を感じさせてくれる内容も盛り込まれていたのが大変良かったと思います。

アニメもここで一段落です。
後半で投げられた伏線が、今後の秋冬への物語に繋がっていくことでしょう。

間が空きつつも何とかこの作品も区切りまで感想を続けてくることができました。止む止まれぬ事情での放送延期を選ばざるを得なかった製作スタッフの方々に、最大限のエールと感謝を送りたいです。

書き手としては演劇経験がある者として、実感を伴って執筆ができるのが良かったですね。久々に舞台の良いところをたくさん実感させてもらえたように思います。お楽しみ頂けていれば幸いです。

2クール目の記事もできれば執筆してみたいです。その時が来た際には、また読みに来てみてください。

The Show Must Go On.
舞台って楽しいですね。また皆さんに他の記事でお会いできるのを楽しみにしています。それでは。

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はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。美少女よりイケメンを好み、最近は主に女性向け作品の感想執筆を行っている。キャラの心情読解を得意とし、1人1人に公平に寄り添った感想で人気を博す。その熱量は初見やアニメオリジナル作品においても発揮され、某アニメでは監督から感謝のツイートを受け取ったことも。

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