秋組の初回公演も大成功に終わり、いよいよ最後の冬を残すのみとなったMANKAIカンパニー。
元ただの借金取り(今でも借金取り?)の左京と交わした約束まであと1シーズン。
軌道に乗ってきているとは言え、冬は冬でまた新たな団員探しから。心機一転、ゼロからの気の抜けない日々がまた始まります。
作品としても、舞台演劇のオーソドックスな魅力は過去18話でだいたい伝えてきた印象。ラストを飾る冬組がどのような方向性で「演劇」を表現するのか。よりニッチな部分への切り込みが期待されるところです。
全ての始まりを語るアニメ『A3!』の最終章。その第1話を、今回も紐解いて参りましょう。
平均年齢高めの"濃い"メンバー
濃い。
特濃だ
劇中でも多方向からたびたび口にされた冬組の印象は、特に深い意味もなく言葉そのまま「濃い」と言うのが的確でしょう。
謎の多いキャラは春組のシトロンから存在しているし、夏組も個性的という意味では決して引けを取っていないものの、表面的な突き抜け方では冬組がダントツで常軌を逸しています。そう考えると秋組は比較的みんな普通の人(?)だった…。
GOD座出身の高遠丞を除いた全員に隠された背景があり、一筋縄では行かない座組になりそうな予感。丞も役者として行く当てがなくなってしまった者であることを踏まえると、冬組は「ワケあり」な人たちの集まりと言ったところでしょうか。
車の免許の話題から少なくとも全員が18歳以上であるのは確定的で、話しぶりから恐らく全員が成人しているようですね(※御影密はまだ分からないが)平均年齢も最も高い座組になるのかなと?
『A3!』は夏組で最年少組の成長を描いたフレッシュなストーリーは展開されていますが、その対極である総合的に大人びた雰囲気を持つ座組が存在していませんでした。左京は個人的にアダルティなキャラで、秋組全体が大人びていたかと言われるとそうではありませんしね。
冬組はやはり、残っているその大人要素を拾ってくれそうなメンバー。
大人になってから演劇を始める難しさは、それこそ左京が先にしっかりと語ってくれています。左京の物語をベースにおいて解釈すると、冬組の物語はより味わい深いものになって行きそうです。
その他、今回は丞と旧知の仲である月岡紬も演劇経験者の様子。「舞台に立った」ことをもって演劇経験者と呼ぶのであれば、冬組は元からの経験者がいる唯一の座組であるとも言えます。
最後ともなると新たに語れる範囲はどうしても狭くなってしまいますが、冬組もしっかりと他の3組にはない唯一性が1話目で既に見えてきているなと感じます。
他の座組の焼き直しになる心配は全くなさそうですし、今までの積み重ねを利用した"濃い"ストーリーが紡がれることに期待が高まります。「ワケあり」の彼らが見せる演劇の世界を、またしっかりと楽しませてもらいましょう。
今回活躍したキャラクター達
では今回は1話目ということで、新たな冬組&一皮むけた秋組のキャラクターたちを順番に見て行こうと思います。
秋組
彼らは座組で一括で。
やはり一公演終えると一気に貫禄と自信が出てくるもの。1話挟んだだけなのに、キャラの確かな成長と関係性の発展を感じられるのが微笑ましい限り。
春→夏の時にも思いましたが、『A3!』は主人公→先輩ポジへの切り替えが上手ですね。舞台を踏んだことによる感覚的な機微が台詞や立ち回りに反映されていて、間を置かずとも違和感なく次の座組へとシフトできる展開が意識されています。秋組の仲が深まっているのも分かりやすいです。
春→夏は春組がガッツリ先輩として振る舞い、夏組の苦悩に光をもたらしました。一方で、夏→秋は情報の中で関係性が提示されるのみ。劇中での絡みはほぼなく、それが逆に裏側への拡がりを生み出しました(※至のみ万里と違う軸で絡んでいた)
座組同士の絡み方も、主役格のキャラを紐解く上で重要な要素となり得ます。
秋→冬はどのような発展が見られるのかにも注目です。
元々硬派で刺激的なメンバーが多い秋組だけに、地に足付けて落ち着き出すと一気に風格が出てきます。座組全体が頼れる兄貴分という感じ。しっかり"対等"なやり取りができるようになった太一も良い味出していますね。
今後とも良い物語のスパイスになってくれそうです。ところで臣さん、どのくらいの頻度でそんなすごい晩御飯作ってるの?
月岡紬
かなり「ワケあり」そうな冬組のセンターキャラ。
今のところ万里以上に「この子が真ん中なのか」という印象のキャラクターで、どんな活躍を見せてくるのかが全くの未知数です。
幼なじみの丞とは過去に何かしらの因縁があるらしく、それも芝居絡みのは間違いない様子。「逃げた」「帰ってきた」と言われているのが、彼を知る上でのキーポイントという感じでしょう。
丞にはめちゃくちゃ邪険にされていますが、紬側から何かを言い返すことはありません。丞の入団に際しても憎まれ口はおろか、文句や苦言さえ一切口にしないのは少し異様です。強い自責の念に駆られながらも、故にもう一度(?)舞台に立ちたいという確固たる意志も感じさせます。
運転についての話題では丞が「あれが最後かよ」と言っていることもあり、彼ら2人は袂を分かってから物凄く長い年月が経っているわけでもなさそうです。また、以前は共に出かけるほどに親密な仲であったことも匂わせてくれました。この時系列の整理も、冬組の読み解きには関わってきそうですね。
オーディションではブランクを感じさせない芝居力を披露。スマホを使って一芝居という題目で台詞を使わない感情表現をチョイスし、場を圧倒します。かなりの稽古量に裏打ちされた技術を持っていそうです。さすがGOD座のエースに敵視される存在、というところでしょうか。
しかし「未経験者と同じ扱いで良い」と言いながら、明らかに経験の豊富さを見せつけるような立ち回り。この辺りのやり方が妙にしたたかで、悪意的に解釈すればちょっと性格が悪いと言えなくもない行いで攻めてきましたね。
それだけMANKAIカンパニーに本気で入団したい気持ちが強いとも取れますし、少なくとも登場人物は(皮肉を言っていた左京を含めて)彼の行いに好意的でした。ネガティブな要素はないとは言え、「これで結構自信家なのかも?」という疑念を抱かされる1シーンでした。
まだまだ表面的なことばかりですが、「ワケあり」レベルは分かりやすく高そうな紬くん。他のキャラに比べると癖は決して強くない彼がセンターに入ることで、どんな座組になって行くのかが楽しみです。
高遠丞
元GOD座のエース。その設定から、全キャラクターで最も舞台人としてのポテンシャルが高そうな丞くん。と言っても芝居をしているところはまだ全く見られていないので、その内情を知るのもこれから…という感じにはなってきていますが。
神木坂レニに反旗を翻したことで、界隈から干されそうになっている彼も「ワケあって」MANKAIカンパニーの一員へ。振る舞いや発言を参照するとかなりの常識人に見えますが、やはり紬とトラブルを起こしているのは1つ押さえておかなければならないポイントです。
諍いというのは結局「両成敗」であることも多いもの。紬が一方的に悪いとは限らない以上、その理由や経緯に丞のキャラを深掘りするための重要な要素が含まれている予感がします。
あのGOD座で寵愛を受ける存在ですから、それだけ舞台馬鹿である可能性は高いでしょう。そういう逸材にはこう、やはり少し常識から外れた"ヤバさ"を持っていてほしいなぁと今の段階では思ったりしています。
何はともあれ、彼はとにかく舞台人として振る舞っている姿を見てからが本番です。次回以降、しっかりと彼の本懐を見定めさせてもらおうと思います。
雪白東
コ、コウジィ…?ウッ…
前職が添い寝屋さんという既にヤバそうな人。
ミステリアスと言うか、エロティックと言うか、色々とゾワゾワさせられる要素の持ち主。
どちらかと言うとファンタジー存在よりかは自由人寄り。自由人と言うかニート?ヒモ?そんな感じのイメージ。決して浮世離れしすぎているわけではなく、これで意外と現実味のある"おかしい人"なのが彼の面白いところではないでしょうか。
MANKAIカンパニーに興味を持った理由には万里と十座を上げており、自分とは全く違うタイプのまっすぐさにも感銘を受けるタイプの人間でもありそう?添い寝屋という他人の心に寄り添う仕事で食っていたこともあって、人とは少し違う感受性を持っているのかもしれません。
オーディションでも「相手の話を聞く」という得意分野をしっかりと活用。これは冬組の芝居にもおいても、彼の長所として活かされて行きそうな気がします。芝居において相手の言葉や感情を適切に受け止められることは、それだけで1つの才能であり個性と言えるものですから。
情報としては現在は「求職中」というのも、押さえておきたい点でしょう。前職で食うには困らなさそうな雰囲気ではありますし、「買い物代を持つ」と言っている辺り実際お金に困っているわけでもなさそうです。
つまり仕事を変えようとしていることは、彼は彼で何か人生を見詰め直す理由があることの示唆でしょうか。なかなか掴みどころのないキャラですが、故に内に秘めた感情も大きいような気がします。
アニメ『A3!』は多くを語られないままのキャラも何人か存在しているため、一筋縄では行かなさそうな彼は匂わせに留まる可能性も否めないのかなと。6話の間に、何か深淵へ至る入口くらいは見せてくれたら嬉しいですね。
有栖川誉
詩人。何故か吟じる。
いわゆるTHE変人キャラなのですが、態度と雰囲気がおかしいだけで行動と発言は意外と普通だったりするような気がします。
密と率先して同室になったりと中身は決して偏屈ではないし、むしろ寛容な対応を見せる結構良い人。発想も突飛すぎるわけでもなく、常識的な範囲から結論を導き出しているように見えています。
詩人という職業柄か自分の興味の方向性には従順なようで、そこだけが異質と言えば異質なポイント。逆に言うと、それだけ努力で今のポジションを獲得しているタイプの人と言えるのかもしれません。
現時点では総合的に色々なところがズレているなぁという印象です。そしてこのズレこそが、彼が今こういう人間として生きている理由に繋がってくるものなのではないかと思いながら見ています。
19話では表面的な面白さに終始したため、過去や芝居に関わる情報は一切の提示がありません。1人で朗々と吟じられるところが、芝居にどんな功罪をもたらすのか程度でしょうか。
今までも他の分野の表現者として役者の世界に参入してくるキャラクターがいましたが、それぞれ他の者にはない説得力を持った物語を見せてくれています。彼にもまた、新しい扉を開いてくれることを期待したいです。
御影密
海に流れ着いたらしい常に眠っている青年。
表面的な"濃さ"を持つ冬組の中で最もファンタジーな存在で、その異質さはやはり際立っています。
今回は眠っている彼を中心に冬組が交流を交わしていたのが印象的。実質的に冬組の全体像を提示する上で大変に重要な役割を果たしてくれました。
舞台において「何も喋らない」「何もしないキャラ」というのはそれだけで存在感があるもので、"そこにいる"ことは必ず周りのキャラクターに大きな影響を及ぼします。
今回の密の活躍は正にそういうイメージ。
彼が何かをしたわけではないものの、彼がいなければもっと他の4人の解像度は低いままだったのは確実。密がただそこにいてくれたことで、他のキャラが均等に個性を見せることができたと言って良いのではないでしょうか。
庇護すべき対象とどう向き合うかも、そのキャラの本質性を見る上では大事になってきます。密に対する冬組の対応は優しさに溢れていて、他人を無下にしない心優しいメンバーが集まった座組だなとすぐに感じ取ることができました。
彼がこのままの役割として初舞台に臨むのか、それとも大きな変化を持って見違えるほどの活躍を見せてくれるのか。どちらでも面白いことになりそうですし、どちらの可能性もあると思っています。今後ともその動きを見落とさないようにしてあげたいです。
立花いづみ
どう考えても(現状)部屋割りをミスっている。
オウム
え、なになにどういうこと?
※追記
『A3!』のマスコットキャラだということを知りませんでした!急に喋り出してビックリ!
おわりに
第19話は冬組の顔見せということで、まずは全員の表面的な印象を総ざらいしてみました。
ここから1人1人の物語が毎話展開されて行くはず。何事も"濃い"のには理由があり、そこに至るまでに様々な味が足されているもの。それを分解して理解してあげることが楽しみへと繋がって行きます。
彼らが分かりやすく濃い味なのか、複雑に濃い味なのか。
未知数な部分が多いこの冬の座組を、最終回までしっかりと見届けて行こうと思います。
アニメ『A3!』との付き合いもなかなか長いものになってきました。書き始めた頃よりもたくさんの方に読んで頂けるようにもなり、大変に嬉しいです。
最後までしっかりと書き切ります。是非最後までお付き合い頂ければ幸いです。それでは。
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