あんさんぶるスターズ! アニメ ミリしら感想 単話感想

キンプリオタクの『あんスタ』ミリしら感想 第22話 聖夜に集う新たな光 いつか見た夢の先へ

2019年12月13日

主を無くしたValkyrie

Knightsの出番終了後、ステージ袖にはValkyrieの一角、影片みかの姿がありました。

鳴上とはみかちゃん・なるちゃんと呼び合う仲。
初接点…と思い込んでいたところ「マリオネット」で会話していたことを唐突に思い出しました。当時はまだそこまで注目できなかった部分です。ここまでアニメを見てきたことで、感じ方が変わるシーンが他にも幾つもあるんだろうなと思っています。

何でもお師さんと連絡が取れなくなってしまったとのこと。根を詰めすぎて体調を崩す…クリエイターあるあるではありますが、連絡が取れないというのは異常事態です。

鳴上が影片に協力しようとしたところ、レオも捜索に名乗りを上げます。

「久しぶりにあいつの執念が籠った作品を見て……」という台詞を吐きながら、何故か影片の方を一瞥して彼の元に近付いていくのが印象的。まるで影片自身が斎宮宗の作品の一環であると言いたげな行動です(影片もそう言われたら喜んでしまうんだろうが…)

そのレオの発言と行動に、嬉しそうな鳴上、中立の瀬名、面倒臭そうな凛月、よく分かってないであろう司。僕が思い描いていた通りのKnightsの反応を確認し、斎宮宗の捜索が始まります。

芸術家の邂逅

切羽詰まるとトラウマや思い出を夢に幻視する傾向がある斎宮宗。

仁兎のことを「裏切者」と表現しながらも、やはり心の奥底では3人で活動していた時期への渇望が捨て切れない、そんな"人"への執着の強さを感じます。何だかんだ人を嫌いになれないタイプでしょう。

「相変わらず面白いなーお前」

そんな斎宮を誰よりも早く探し当てたのは同じ芸術家同士、一応は認め合う仲であるレオなのでした。レオが初登場した時に斎宮とは芸術家同士で何かしら関係があるといったことを書いたと思いますが、しっかり当たっていたようで良かったです。

同じ方向性の芸術家とは思えませんが、突き詰める者同士で通じるところもあるのかもしれません。だからこそ彼が斎宮宗の姿を捉えることができたのかも。そして互いに「なんでこいつが学校に来てるんだ?」と思っている辺りも面白い。

「ほらほら起きろ!メリークリスマス!」

いやそもそもお師さん、状況が意味不明だ。
何がどうなってどうしてこうなった。

王様も大概トンチキなことしか言わないが、今回レオが言う「面白いなー」には一定の正当性がある。何が起きてどうなるとそこで独りで仰向けに倒れることができるんだ。一種の前衛芸術と捉えられても文句の言いようがない。

しかしながら、無事芸術家同士の共鳴?によって、結局全員で斎宮宗の捜索に協力したらしいKnightsも一安心(ペアで行動しているようだったが、司はどこに行った?)

…のはずが、先に現地に戻っていた凛月と鳴上の目に飛び込んできたのは、あり得るはずのない光景でした。

Ra*bitsの仁兎なずなとして

「どういうつもりや!?」

スタフェスの舞台裏には、珍しく声を荒げ激昂する影片の姿。そして罵声を浴びせる相手は、Valkyrieの衣装に身を包んだ仁兎なずなでした。

「七夕祭」の折に影片と仁兎の会話がなかったことから、影片が仁兎を快く思っていないことは想像通りの展開でした。しかし、仁兎が再びValkyrieの衣装に袖を通すのは予想外。

ユニットから脱退したはずの彼が、大事なライブの前に古巣の衣装を着て影片の前に立つ。それが影片にとってどれほどの冒涜的行為かに当たるかは想像に難くありません。流石に無視するわけにはいかないでしょう。

自分が助っ人に入れば、不戦敗だけは免れる。
夢ノ咲学院では(一部の特例を除けば)個人でのドリフェス出演はできないルール。2人しかいないValkyrieでは、1人を欠けば強制的に不戦敗になってしまう。

それを回避させるために、仁兎は「自分がValkyrieとしてステージに立つこと」を選んだのです。

仁兎から見たValkyrie

思い返せば仁兎は、あのドリフェスでの音響事故の後に「同様の悲劇を繰り返さないために」放送部に所属することにしたと語られています(厳密には渉が予想しただけで本人が口にしたわけではない)

これは斎宮が帰ってきた時に、またValkyrieがアイドルとして輝けるような学院にしたいと仁兎は思ったのだと考えています。

確かに仁兎自身が斎宮宗のマリオネットとして過ごすことに窮屈さを感じていたのは事実で、Valkyrie脱退にはそういった心情も絡んでいるとは思います。ですが仁兎があの事故を「良い機会だから」と考えて行動するような人間だとはとても思えません。

しかし逆に言うとそれは仁兎がトラウマを背負って引き篭もってしまった斎宮を助ける選択をしなかったとも捉えられます。

「七夕祭」ではそちらを見て"Valkyrieの裏切者"としての側面が強い物語が展開されました。でもそれは"Valkyrieから見た仁兎なずな"に限った話。"仁兎なずなから見たValkyrie"にはまた違った事情がある。

それが交錯するところにきっとValkyrie達の新しい物語があるものと思います。

今回のエピソードではその可能性が語られました。
少なくとも仁兎は、Valkyrieがピンチに陥った時に「立場を投げ打ってでも助けたい」という想いを持っていることが分かったからです。

決して交わらない想い

「…誰も頼んでへん!脱げぇ!」

しかし、その仁兎の想いは今の影片には届きません。何故なら、影片が最も望んでいたサポートを、仁兎は取ることができなかったから。

「俺らが一番苦しかった時、傍にいてくれへんかったくせに!」

影片はきっと"心"を優先する少年なのだと思います。
一番大切な人が苦しい時、辛い時、必要なのはその人のそばに寄り添って全力で助けてあげること。声をかけてあげること。それが無駄なことかもしれなくても、その人が立ち直るまで"心"を救おうとしてあげること。

そういう気持ちで「傷ついたお師さんの救いになりたい」と思い、彼は献身的に尽くし続けたと思っています。

でもそれは尽くし続ける方にとっても本当に辛い選択で。影片のような人間は特に「自分が力になれていないから、彼は戻ってきてくれないんだ」と、自分を責め続けてしまうようなタイプではないかと思います。

だから彼は「"俺ら"が一番苦しかった」と、自分を含めた言い方をしてしまったのでしょう。そしてその時に一番傍にいて助けてほしかった大切な人は、全然違うことを始めてしまっていたから、それを引き戻すこともきっと彼にはできなかった。

仁兎は仁兎で、自分が行動することがValkyrie復活のためになると思って行動しています。それは未来を考えた物理的な解決策で、これもまた必要なことです。

仁兎は"心"ではなく"事実"を強く見て、自分が取れる最良の選択を取りました。そしてこの2つのどちらを尊重すべきは、決して交わることのない価値観の違いでもあると思います。

彼らが夢ノ咲に戻ってきてライブをできているのも、どこかは仁兎の努力の賜物であるのかもしれません。でもそれは目に見えない成果であって、影片には決して伝わらない。

"心"を求める者は決して"事実"を求めない。
"心"には"心"を返してあげなければ、どんなに相手のことを大切に想っていても伝わらない。

そして受け取る方もまた、理解したくても理解してあげられない。仁兎のことを分かってあげたくても、その術を影片は持ち合わせていない。

そのジレンマに、影片は飲まれてしまっているように見えました。

"心"

「影片…いやみかちん。お前の言う通りだ」

仁兎はその影片の想いをValkyrieの先輩としてではなく、Ra*bitsの仁兎なずなとして受け止めて返します。

自分は声変わりで歌を失って何の取り柄も無くなった。だからあの時の自分には価値なんか無くなっていたと仁兎は感じていました。影片がその言葉に苛立ちを隠せなかったのは「そんなこと関係ない。俺達は傍にいてほしかっただけ」と言いたかったのだと解釈しています。

「でも…そんな俺をお師さんはアイドルとして扱ってくれた」

影片のことは"みかちん"と呼び、斎宮のことは"お師さん"と呼ぶ。そこに今の仁兎なずなの想いが込められているはずです。

「――お前も…」

仁兎の腕に巻かれていたのは、Valkyrieのライブで身に付けたブレスレット。あの日千切れて手から零れ落ち、天祥院英智に踏み潰されて砕けてしまったはずのブレスレットを、仁兎は再び身に付けていたのです。

影片には仁兎の事情は分からない。
一番必要だった時間を捨てて、ユニットを脱退した彼を許すつもりはない。

けれど、彼が向けてくれたその手の輝きにはValkyrieを想う"心"を確かに感じたのでしょう。意固地だった心の一端を、解きほぐす程度には。

「…Ra*bitsの皆は納得してんのか」

今の仁兎にとって最も大切な存在であるはずのRa*bitsの後輩達。Valkyrieとしてステージに立てば、Ra*bitsとして参加することはできない。それでも良いのかと影片は問います。

それは仁兎の向けてきた気持ちに対する回答を、彼が持ち合わせていなかった故の逃げでもあったと思いました。

それに仁兎は「Ra*bitsの皆が言い出したこと」と答えます。

きっとRa*bitsの中でも、時折Valkyrieを気にするような素振りを仁兎は見せているのでしょう。それを後輩達も感じ取っているから、彼の気持ちを優先したいと考えた。

Ra*bitsがどのような経緯で結成され、仁兎がどのタイミングでValkyrieを脱退することになったのかはアニメでは語られていません。しかし、ユニットの結成には彼らが旧Valkyrieのラストライブを見ていたことは関係しているはず。

Valkyrieという存在は、今でもRa*bitsの心の中に特別な存在としてあるのかもしれません。

「なずな兄ィ…」

心の底から後輩を慮り、愛おしそうな表情を見せる仁兎の姿に、思わず昔の呼び方が漏れてしまう影片。

「もうValkyrieの出番だろ?決めるのはみかちん、お前だ」

砂上の楼閣

「水魚の交わりかぁ!アッパレアッパレ!」

切っても切り離せない強い絆。
三毛縞さんが一言でその重みを表現して行く中、影片と仁兎はValkyrieとしてステージに立つことを選びました。

流石に1話で2つ目の新規3Dライブではなかったものの、Knights同様に美しい作画はセル画のみでも十分に世界観を表現してくれています(Valkyrieのライブは背景セットの3D化が激ムズだったのではないかという憶測)

曲の途中でその2人の間に割って入るように現れたのは、Valkyrieの統率者 斎宮宗の姿でした。初めから彼を待っていたかのような立ち位置と振り付け、それを理解したかのように世界観を乱さず登壇する芸術家。実に奥ゆかしい。

その姿を、斎宮宗を助け出しこの場に導いた立役者――在りし日のValkyrieの姿を知り、かつては芸術の刃を交えたであろうKnightsが笑顔で見届けている。エモの塊です。

(…来てくれたんや)
(人形ばかりに働かせていると思われては、人形師の名折れだからね)

決して一言も言葉を交わすことなく、僅かな目配せとステージングのみでお互いの意志を交換し合う。それができる関係性が彼らにはありました。

(ごめん斎宮…俺…)
(黙りたまえ)

それは仁兎と斎宮もまた同じこと。
ステージの上で私情を交えて動きと表情を曇らせた仁兎を、斎宮はその気迫のみで一喝したのです。

ここは偉大なる芸術の場。
Valkyrieが彩る"世界"が体現されるステージ。

その世界観を乱すものは、どんな要素であれ必要ない。Valkyrieとしてステージに上がったのなら、全力でそれをやり抜くことだけが求められる。

(言葉など不要。そうじゃないかね?)

だからこそ今は3人でValkyrieとして演じることができる。このステージが終わればまた離れ離れなのかもしれないけれど、3人でステージに上がれば、その時間だけは3人の"Valkyrie"があるのだろう。

――ありがとう

斎宮が最後、言葉に出さず呟いたのは、この言葉だったのではないかと思っています。立ち位置的に仁兎の目に届くものではありません。だからこれは、仁兎に悟られないように口にしたことかもしれないし、誰に向けられたものでもなかったのかもしれない。

共に歩む夢を見ていた時間。
それが再び見れたのであれば、"砂上の楼閣"であっても構わない。

ただこの時間を生み出す因果の全てに感謝を込めて。Valkyrieのステージは今日も観客を湧かせます。

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はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。美少女よりイケメンを好み、最近は主に女性向け作品の感想執筆を行っている。キャラの心情読解を得意とし、1人1人に公平に寄り添った感想で人気を博す。その熱量は初見やアニメオリジナル作品においても発揮され、某アニメでは監督から感謝のツイートを受け取ったことも。

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