あんさんぶるスターズ!

キンプリオタクの『あんスタ』ミリしら感想 アプリ編⑨「決別!思い出と喧嘩祭」

2020年5月3日

引用元:『あんさんぶるスターズ!!Basic』「決別!思い出と喧嘩祭」

いよいよやって参りました「決別!思い出と喧嘩祭」
序盤の中ではオススメの非常に多かったものでもありますが、個人的にも読むのを楽しみにしていたストーリーです。

と言うのも、僕が初めて「原作読んでみようかな」と思えたのが「喧嘩祭」を知った時だったからです。

アニメで匂わされた中で特に気になっていた関係性の1つが、英智と蓮巳の2人についてでした。それが細かく描かれている内容のストーリーがあるとのことで、大きく興味をそそられることに。

原作を始めて何となくストーリー一覧を見ていた時、かなり序盤にあるのを見つけて嬉しくなったものです(公開順に読むと決めているので)

実際に読んでみたところ、これぞ『あんスタ』の真骨頂と言うべき、"生きた"キャラクター達の物語。期待していた分、心地良い読後感を覚えることができました。

今回もしっかりと書かせて頂きます。是非お付き合いください。

紅月の関係性

「喧嘩祭」のお話はまず、紅月の関係性から始めましょう。

このストーリーは英智と蓮巳の物語だと思って読み始めましたが、蓋を開けてみれば紅月がメインとなるお話でもありました。

アニメにおいて紅月は序盤から登場しているものの、関係性の掘り下げはほぼ行われないまま終わったユニット。活躍らしい活躍もメインストーリーの前半くらいのものでした(ただし蓮巳と鬼龍はキャラとしては出番多め)

結果としてこの「喧嘩祭」は、僕にとって紅月というユニットのことを知る初めての機会にもなりました。

僕はアニメでの印象から、紅月はいわゆる「あまり多くを語らないが背中で信頼し合うタイプ」のユニットだと思っていました。本人達の間に深く語らずとも信頼できる「個人的な関係性」が存在しているので、劇中でも深く語られていないのだろうと思った、という感じです。

その見立てが的外れであるとは今の段階では判断できませんが、少なくとも思っていたよりはその結びつきが弱いユニットだったことが分かりました。

特に鬼龍と他2人の関係がかなりドライで、想像以上にお互いのパーソナルな事情を知り得ないままユニット活動を続けているのが見て取れます。これは仲が悪いなどではなく、踏み込んでいない範囲があるというイメージです。

そうでありながらも彼らは「紅月」を通して深く強い絆で結ばれており、それがかけがえのない尊いものだと認識し合っています。それがありさえすれば、個人的な領域に踏み込みすぎる必要はないと感じているのでしょう。

つまり紅月は友人として始まったのではなく、あくまで"同志"として繋がったのであり、その線引きを今に至るまで違えていないということです(それが昇華して"友"となっているのかは今後分かることでしょう)

考えてみると夢ノ咲のユニットは、その結びつきに私情を挟んでいる例が大半です。個人主義のKnightsでさえ――いやむしろあいつらが一番ねちゃねちゃしているからな…。

そんな中で、完全に「志」のみを根拠に深く強い関係を築いている唯一のユニット、それが紅月なのだろうと思いました。

一部ビジネスライクな関係であるEdenともまた違う、同じ舞台に上がる者への信頼を拠り所に繋がった、ただただ"漢らしい"関係性。やはり同じ男としては、その美しさに憧れてしまうところがありますね。

"漢らしい"ユニットという点に見誤りはなかったにせよ、この手の関係は細かい表現方法こそが重要。その一部を今回で知れたように思います。その先にある彼らの個性をより見極めてみたいです。

英智と敬人

では「喧嘩祭」の主題である英智と蓮巳の関係性を紐解いていきましょう。

アニメでは「エレメント」で「かなり深そうな幼馴染である(ただし価値観は違えている)」ことが公開されていたこの2人。ただ情報としてはそれに留まったのみで、蓮巳が英智に酷く執着しているシーンなどは一切ありませんでした。原作ではやたらと英智を気にかける蓮巳の姿が見られますね。

原作におけるこの2人は「メイン 一部」にて互いを「俺は英智のように甘くはない」「僕は敬人のように優しくはない」と言い合う台詞があり、このことからも本質を認め合っている仲であることは見えていました(※英智は自由を与えた上で全てを押し潰すタイプ、蓮巳は規律に厳しいが手荒なことはしないタイプ)

その2人がマジの喧嘩をするのがこの「喧嘩祭」です。

当然、喧嘩をする以上はそこにぶつかる理由があるもの。そして互いのことを熟知し合っている関係性であればあるほど、その内容は激しく強烈なものであると想像されます。

それが何なのか、何故ぶつかってしまったのか。それを知り、見届けるところからこの物語は始まる。僕はそう思ってストーリーを開きました。

しかし、そのすれ違いは想像よりもずっと穏やかで理知的なもので。"喧嘩"と言うよりはどこか"お願い"のような、それでいて確かに強い想いのこもったやり取りだったのです。

"対等"とは何なのか

次のドリフェスに負ければ紅月を解散する。

天祥院英智が考えた蓮巳敬人の心に火をつける方法は、どうしようもなく極端で彼らしい内容でした。

もちろん、ここに至るまでに英智は様々なアプローチをかけてきたのでしょう。それを全てスルーされてしまったからこそこの強硬策に出た。それは蓮巳が鈍感だった(思い込んでいた)せいなのか、はたまた英智の伝え方に問題があったのかは分かりません。両方かもしれません。

幼い頃、病弱を理由に荒んでいた英智の"本性"に最も寄り添った存在として、今に至るまで陰日向なく彼を守り続けてきた蓮巳。

蓮巳にとって英智は最初から庇護すべき存在であり、それを前提とした関係を築き上げてきました。彼にとってそれこそが日常であり始まりであったからこそ、その在り方を疑うことはなかったのでしょう。

けれど、守られる側である英智はそう思ってはいなかった。心を許せる友人である蓮巳と対等な立ち位置でのやり取りを望んでいました。

しかし実際のところ、"対等"という価値観もまた曖昧なものです。それぞれの人間に長所と短所があり、皆が皆それを補い合って生きています。

英智には天祥院財閥の御曹司という立場の他、アイドルとしてのカリスマ性があり、一介の生徒から謀略を巡らせて学院の皇帝として君臨する(原作のみの場合、この段階ではその設定は判明していませんが)頭の良さも持ち合わせています。それら全てが非凡な才能であるのは間違いありません。

蓮巳はそれを認めているからこそ英智と共にいると思うし、その英智に不足している部分を埋められる存在として彼の右腕を務めているはずです。それは多面的に考えれば、英智と自身を対等に並べて考えているとも言えるのです。

生まれ持った身体の強さとは本人の行いや才覚に関係なく背負わされたハンデであり、他者から見ればそれは「個人の問題ではない」ものです。その先天的な不幸を支えるのは友人として当然のことであり、そもそも個人比較の範疇に入らないのではないかと思います。

だから蓮巳は英智を下に見ているつもりなど毛頭なかった。ですがそれは守る側の"当然"であって、守られる側にはまた違った都合と感情が存在する。

それが今回の一件を招いたのです。

"特別"な存在であること

英智からすれば病弱という性質は自分のパーソナリティの1つであり、否応なく向き合わざるを得ない性質です。それを「個人の問題ではない」と思うことはできません。

それも含めて自分である。自分であるとせざるを得ない立場だからこそ、彼はそれを理由に誰かに気を遣われることを良しとしない。特別扱いされることを彼は心から拒んでいます。

そんな彼が、誰からも特別扱いされる立場に進んで身を置く選択を取るのもまた皮肉なものです。いやむしろそんな身体だからこそ、それ以外のところで誰からも特別扱いされる自分を目指したのかもしれませんね。実際、英智の病弱さに配慮する人間は作中にあまり登場しません。

その中で幼少期からの自分を理解し、ただの子供だった時から英智の横に在り続けたもの。それが蓮巳敬人でした。それは今の英智にとって本当に幸福なことで、数少ない救いの1つだったと思います。

英智もそれを頭では理解しているものの、やはりどこかで納得できないところがあったようです。

英智は英智で蓮巳を特別な友人だと思っています。しかしそれは蓮巳の持っている特別とイコールではない。今と昔では"特別"という言葉の持つ意味合いがまるで違っているのです。

今の蓮巳が向けてくる"特別"は、昔の大人たちに向けられた感情に近しい気がして受け入れられない。そんな感覚だと推察しています。

どうして敬人は、自分に牙を向けないのだろう。価値観を違える自分についてきてくれるのだろう。それは自分が敬人にとって庇護の対象だからだ。僕は敬人にそんな風に見てほしいわけじゃないのに。

病弱故に誰からも特別扱いされた天祥院英智を特別扱いしなかった唯一の友人は、時を経て誰よりも彼を特別扱いしてしまう唯一の友人になりました。

他の者から敵意を向けられる立場になったからこそ、英智には蓮巳の思いやりが違った形に映ってしまう。

立場や個性に縛られない「天祥院英智」という個人として周りから見られるようになったのに、最もそれを認めてほしい蓮巳敬人だけがそれを認めてくれていない、気がする。

だから英智は蓮巳と「喧嘩」がしてみたかった。
一度としてしたことがない子供の喧嘩を通して、本当の意味で"特別な友人"となるために。

彼らにとっての"喧嘩"とは

蓋を開けてみればこの物語、「果たしてこれを"喧嘩"と呼ぶべきなのか」という感想に行き着きます。

英智にとってこれが"喧嘩"にくくられるのだとしたら、彼は本当に喧嘩の行い方を知らないまま大人(高校生だが)になってしまったのだなと思わされます。

喧嘩とは本来、感情が爆発した時に止めようもなく起こってしまう事象であり、冷静な思考とは対極的な位置にあるものです。英智はそれを、打算と論理で人為的に引き起こそうと動きました。

その行動が蓮巳が全く思い至らないところから来る"吹っ掛け"であったことを考慮すれば、広い意味では喧嘩なのかもしれません。

ただ、それにしてはお互いがお互いについて冷静すぎる。

結局このドリフェスは「敬人はこれくらいしないと本気にならない」という打算からスタートし、それに対して蓮巳が(一度は気絶しながらも)「英智には何か考えがあるはず」と受け入れることで物語を進行させました。

つまりこの2人、本当にどうしようもなく互いのことを熟知してしまっている論理派なせいで、感情がぶつかり合う前に話が解決してしまう。

結果として「喧嘩祭」は戦う前に99%本題が完結してしまっており、残りの1%を儀礼的に消化するためにドリフェスを行う、客観的にはあまりにもトンチンカンな展開で終了しました。

これを英智がドリフェスなんか企画せずに面と向かって蓮巳に声を荒げていれば、文字通りの"喧嘩"が発生して済んだ話だと思います。英智が抑えようのない"感情"を持っていたのは事実だと思うからです。

でもそれができないからこそ、この「喧嘩祭」は必要だった。だからこれは英智にとっては紛れもなく"喧嘩"でありながら、その一方で本来の意味での"喧嘩"であるとは言えません。

それらを全て咀嚼して受け入れた上で、その"喧嘩"に乗った蓮巳敬人の異常な理解度。それも含め、彼らは妙に噛み合った2人なのだと感じました。

本当であれば、"喧嘩"などする必要のない2人がどうしても求めた、互いの気持ちを確かめ合い発展させる時間。それは2人だけの間で成立する2人が通い合うための主観的なやり取りであればいい。

その交わりを2人が「喧嘩」と形容するのであれば、それもまた良し。天祥院英智と蓮巳敬人の間で、それが正しいものであるならば。

たとえ立場が変わっても

今回の物語で蓮巳が英智の心情を理解できたのは彼自身の論理性あってのことですが、その裏側には彼が紅月というユニットを持ったことも大きく影響していると思います。

常に支える側だった蓮巳は、紅月のリーダーとなったことで支えられる側に回るようにもなりました。それは彼の見える世界に大きな変化を与えたことでしょう。

トップとは自分のできることを見極め、周りの優れているところを認めて任せる立場ですが、それ故に自身の至らなさや支えられることへの申し訳なさなど、様々なことをもどかしく感じることも多々あります。

逆にメンバーからすれば(優れた)トップを支えるのは当たり前で、それが自分の役割を全うすることとイコールです。だからこそメンバーがトップの抱えている苦悩に思いを馳せるのは難しい。それはメンバー視点では「悩む必要のないこと」になるからです。

蓮巳は出会ってからこれまで、そのような考えで英智を支えていたのだと思います。決して軽んじていたわけでもなく、下に見ていたわけでもない。ただ英智は「支えられて当たり前の存在」だと思い込んでいたから、そこにある英智の苦悩や気持ちを考えることもなかったのでしょう。

紅月の2人と繋がったことで、支えられることが「気持ちの良いことばかりではない」ということに蓮巳もまた気付きました。その経験と新たな知見があったからこそ、彼は元来持っている思考力の高さで最良の結論を導き出すことができたはずです。

関係性の成長と可能性の光

ここからはまだ推測ですが、英智もまたfineという忌憚なく接することができる仲間を得たことで、蓮巳に対して求めるものが変化したのだろうと思います。そしてそれがこの「喧嘩祭」を開催したキッカケの1つに相成ったのではと。

fineのメンバーと英智の間には明確な立場の差がありますが、英智にとってのfineは心を許せる新たな拠り所であるはずです。

立場や価値観は異なっていても、ちゃんと通じ合うことはできる。そういった対外的な概念以外の内面で、人間はその結びつきを強めることができる。fineを結成してそれを実感したことで、蓮巳とももっと良い関係を、唯一無二の友人であることを望むようになったのではないでしょうか。

個人的な活躍はさほどなかったものの、このストーリーではfineのメンバーも英智に付随する形で登場し、会話を交わしました。これはfineが英智に与えた影響も含めて、「喧嘩祭」が成り立っていることが表現されたと僕は思っています。

夢ノ咲学院に入ったことで彼らを取り巻く状況は変化し、立場も考え方も行動も以前と同じままというわけには行かなくなりました。

変化していくものの中で、変わらないまま残っているものもある。"決別"しなければならない過去はあるけれど「昔とは違う」が必ずしも悪い意味に転ぶとは限らない。離れていく感情もあれば、より良い形で理解し合える部分も増えていく。

そんな旧知の友との関係性の発展、成長と可能性の光を見せてくれるストーリーだったと思います。

相手のためにが自分のため。
自分のためにが相手のため。

美しい友情の物語が、そこにはありました。

おまけ:あんずさんの男性観

Amazing

おわりに

「喧嘩祭」は今まで読んできたものの中で、最もキャラクター同士の深い関係性が語られるストーリーでした。

このストーリー辺りでグッと引き込まれた方も多いのではないかと思いますし、『あんスタ』という作品が今の規模に拡大するターニングポイントの1つになったのではないかと感じます。

長い物語ではなかったですが、1つ1つの台詞に重みと熱量があり、確かな読み応えを感じました。画面を止めて細かく堪能する時間も長くなりました。

序盤の助走期間が終わり、ここから本番。本格的な深みに踏み込もうとしているのをひしひしと感じます。

今後ともできる限り1つ1つの物語を丁寧に紐解きたいですが、今回のように登場キャラ1人1人への言及を行うのが難しくなっていく部分もあると思います。

「このエピソードの私の推しキャラのここが好きなんだけど書いてなかった…」ということも多くなると思いますので、どうしても聞きたいことがあれば質問箱などに投げてください。どこかでまとめて回答しようと思います。

それではまた次回の記事でお会いしましょう。次回はいよいよアレですね。よろしくお願いします。

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はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。美少女よりイケメンを好み、最近は主に女性向け作品の感想執筆を行っている。キャラの心情読解を得意とし、1人1人に公平に寄り添った感想で人気を博す。その熱量は初見やアニメオリジナル作品においても発揮され、某アニメでは監督から感謝のツイートを受け取ったことも。

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