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【超感想】『半沢直樹』前作からの路線変更「2020年の視聴者」に応え続けた傑作

2020年9月28日

引用元:『半沢直樹』キービジュアル

先日、惜しまれつつも終了した2020年版『半沢直樹』。
前作から7年という歳月を経過させてなお全話視聴率20%超、最終回には連ドラ史で前作以来となる30%超えを果たしました。名実共に社会現象を再来させたと言って良いでしょう。

それだけ本作への視聴者の期待値が高かったことはもちろんのこと、何より製作スタッフ・キャストがその期待に応え続けてくれたからこそ実現した結果だと思われます。

長い冷却期間を挟みながらも、どうして『半沢直樹』は2020年の視聴者を熱狂させることができたのか。この記事では一期との違いを踏まえながら、本作の優れた点を紐解いて行こうと思います。よろしければお付き合いください。

1話完結風の2020年版

2013年版『半沢直樹』と2020年版『半沢直樹』は、似て非なる作風である。

全てはまずここからスタートしましょう。
実は2013年版『半沢直樹』は、2020年版ほど毎週痛快な内容が展開される作品ではありませんでした。

銀行員としてまだまだ一兵卒に過ぎなかった半沢直樹が、地位も経験も実力も上の人間を相手にあの手この手で奮闘する。それが2013年版で描かれた物語です。

ポテンシャルこそずば抜けているものの、できることは決して多くはない。そんな中で自身を成長させ、時には仲間を率いて、時には敵の心さえ溶かして状況をひっくり返していく。それが積み重なった結果として、最後には凄まじいカタルシスを体現する。

2013年版はそういったストーリー性を重視した作風に仕上がっており、1話ずつじっくり鑑賞して大団円を迎えるのが最高に気持ち良いTVドラマ作品でした。

一方で2020年版は、毎週必ず半沢が痛快な勝利を収める1話完結的な方向性を強めた作品へと路線変更しています。

毎週「今回はこいつが半沢に倍返しされるんだな」と思わせられる敵が用意され、1本のストーリーを描きながらも必ずラストを清々しい気持ちで見終えることができる。次週への期待は持たせる引きこそあれ、モヤットした気持ちで終わる回は一度としてありませんでした。

特に2020年版は半沢直樹が一流の仕事人(バンカー)として確立された状態から始まるため、毎週が「半沢劇場」とも言うべき無双状態に。三下レベルの相手は、もはや可哀想になるレベルで叩きのめされてしまっていました。

2020年版を見てから2013年版に戻ると、「今見ると意外と大人しいな」と思わされることでしょう。同じ『半沢直樹』の中で、確かな違いが存在しているのです。

「今の視聴者」が望む『半沢直樹』

では何故、現代の視聴者はその『半沢直樹』の路線変更を受け入れ、2013年版と同様に熱狂することができたのでしょうか?

それは7年という長い年月の中で、多くの視聴者が『半沢直樹』という作品に残していたイメージが2020年版だったからだと思われます。

時が経過すればするほど人間の記憶は薄まっていくもの。いくら社会現象を引き起こした『半沢直樹』であっても、内容のほぼ全てを完璧に覚えている人は稀でしょう。

最後に我々の頭に残るのは、その作品で「最も印象的だった部分」のみに留まります。そして『半沢直樹』におけるそれは「怒号を上げて倍返しを決める半沢」と、それと大乱闘を繰り広げたキャラクター(大和田・黒崎など)の怪演に他なりません。

かく言う僕自身が2020年版『半沢直樹』をそのような印象で楽しみにしていた1人でした。2013年版がストーリー性を大事にしていたことを思い出したのは、2020年版放送前のダイジェストを見た時です。

2020年版の製作スタッフ陣はその冷却期間の長さを鑑みて、「今の視聴者が最も望んでいる『半沢直樹』」を実現することに全力を注いだと僕は考えています。

実際は2013年版と同じように、ストーリー性を重視した演出と脚本を用意することも可能だったでしょう。しかしそれは「思ってたのと違う」「前作から劣化した」と叩かれてしまうリスクも孕みます。

7年も経っていれば前作を見ていた視聴者も成長し、新たな価値観を形成しています。当然、前作を見ていない新たな感性の視聴者も現れます。前作と同じように真摯に創れば成功するというわけでもありません。

だからこそ製作陣は「今の視聴者が絶対に楽しんでくれる作風」と真摯に向き合い、そのための『半沢直樹』を届けることを選んでくれたと感じています。

結果として我々は毎週のように叫び唸る半沢に熱狂し、大和田の怪演に「そんな人でしたっけ?」と思いながらも爆笑する。3ヶ月間そんな最高の時間を過ごすことができたのです。

「2020年」に向けた1000倍返し

7年という歳月は本当に長いものです。
前作が放送された頃はスマホよりもガラケーのシェア率の方が高く、YouTubeなどの動画共有サイトは限れた人のみが楽しむ娯楽でした。映画もレンタルしなければ見られず、サブスクなども当然ありません。

テレビ離れが進むと言っても、2013年はまだまだテレビを中心に楽しむ人が多数派な時代だったと思います。2013年版『半沢直樹』は、それ故に40%を超える異例の視聴率を記録することができたはずです。

現代では映像コンテンツだけでも選びたい放題。
故に多くの人が、ほんの僅かな時間でその「面白さ」を見極めようとします。長い時間をかけてじっくりと盛り上げるタイプの物語は、だんだんと時代遅れになってきていると言えるでしょう。

その2020年に降臨した『半沢直樹』は決して過去の栄光に縋らず、驕らず、この時代に対するチャレンジャーとして最良のものを生み出してくれました。

一度見始めた人の視線と心を掴んで離さない勢いとテンポ感で進行する物語。小難しい内容について行けなくとも、振り落とされずに誰もが楽しめるような緩急が練られていました。

前作以上に歌舞伎役者を大胆に取り入れたキャスト陣は、普段は絶対に見られないような大袈裟すぎる現代劇で我々を魅了します。ただやかましいだけでは決してなく、確かな経験と技術力に裏打ちされた芝居の妙をひたすらに楽しめる至高の時間でした。

「やられたらやり返す、倍返しだ!」というキャッチフレーズは、2020年版ではさほど多用されることはなく。ここぞという場面「待ってました!」と言いたくなるようなタイミングで挿入され、絶妙に視聴者の心を昂らせてくれました。

最終回ではこのコロナ禍で喘ぐ一般人を想起させるようなメッセージを打ち付けます。終盤戦、「これが見たかった」と心の底から思える最高の映像体験が連続した上で、正にこの想像だにしなかった2020年に向けた「1000倍返し」を決めた『半沢直樹』。

2013年の延長ではなく、2020年に「テレビで流す」ことを改めて意識して生み出された最高の連続ドラマ作品。

2020年版『半沢直樹』は、そんな視聴者の期待を一切裏切らない、珠玉の作品として大団円を迎えました。全ての要素で日々を懸命に生きる大切さを表現し、そのための活力を届けてくれる。そんなドラマとなりました。

その存在は前作を見た人にとっても、見ていない人にとっても、全く新しい記憶となって歴史に名を刻むことでしょう。

おわりに

2013年版『半沢直樹』のエンディングをリアルタイムで鑑賞して以降、1人の視聴者としてこの続編を大変楽しみにしておりました。

しかし時が経てば経つほど、その期待は薄っすらとしたものに変わっていきます。実際に続編の製作発表を聞いた時でさえ「本当に、本当にやるの?」と疑心暗鬼になったほどです。

この7年で自分自身の立場も価値観も大きく変わり、前と同じ気持ちで楽しむことができるのかも疑問でした。周りも同様の期待値であるのなら、世間的にも言うほど盛り上がらないのではないか。そんな一抹の不安感を胸に抱えて放送を待っていた頃が、もう遠い昔のようです。

いざ蓋を開けてみれば、2020年版は前作の良さを踏襲した全く新しい作品に。2話3話と見進めるうちに、その"新しさ"に7年前と同じようにのめり込んで行った自分がいるのを確かに感じていました。

クライマックスの9話10話はただただ心を昂らせ、ただただ画面の前で釘付けになりました。

国民の意志を背負って立つ半沢が箕部幹事長に向かって突きつけた文言に感動し、最高に清々しい気持ちで半沢ロスを迎える。

僕もまたそんな幸福な1人の視聴者となりました。

またいつか続編があるのかもしれませんし、これで完全に完結なのかもしれません。どちらの可能性も等しく残るベストな幕引き。だからこそ今はこのエンディングを噛み締めて、今は2020年版の余韻に浸ろうと思います。

「施されたら施し返す…恩返しです!」
待ち続けた視聴者と創り上げた製作陣が交わし合う"恩返し"の連鎖。その一部となれたことを嬉しく思います。最高の作品を、本当にありがとうございました。

  • この記事を書いた人

はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。美少女よりイケメンを好み、最近は主に女性向け作品の感想執筆を行っている。キャラの心情読解を得意とし、1人1人に公平に寄り添った感想で人気を博す。その熱量は初見やアニメオリジナル作品においても発揮され、某アニメでは監督から感謝のツイートを受け取ったことも。

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