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【ミリしら超感想】『アイナナ Second』第7話 「滲む不協和」暗澹たるIDOLiSH7

2020年11月8日

アイドル 和泉三月

和泉三月は6話にて向けられた悪意なき悪意の声から、全く立ち直ることができないでいました。

彼が弱いのではなくそれが普通。あのような経験は人生のトラウマとも言うべきもの。つけられた傷は、今後の和泉三月に終生に渡って影響し続けるかもしれない大きなものです。

その後の冠番組の初回収録では「声」を気にしすぎてしまい、空回りを連発。"ファン"の期待に応えようと努力した結果、制作サイドに難色を示されるほどに詰まらない一回を生み出してしまいます。無機質な笑顔の観客の拍手が、非常に不気味に見える1シーンでした。

大和が指摘した通り、MCの技術は他人に伝わりにくいものです。番組の中核として話を盛り上げながら、出演者に光が当たるように話を振っていく。間違いなく番組の中心人物にも関わらず、主役となってはいけない。そのバランス感覚と配慮が求められる立場です。

トーク番組である以上、MCの画面占有率を下げながら番組を面白くするのは不可能。だから三月が他のメンバーより長く映ってしまうのは、どう足掻いても避けられないことなのです。それを避けてしまったら、それこそ彼が中心に座る意味が無くなってしまいます。

そもそも皆に「光を当てる」とは、決して長い時間番組に出演させることのみを指しません。たった1回の発言のインパクトによってその後の人生が変わる。そんなミラクルが起きるのがテレビ業界であり、それを起こすのが天才MCです。

誰よりも多く喋り誰よりも画面に映っているが、"一番目立っていたのは"三月ではない。自分が目立つだけでなく、他者にもしっかりと気を回すことで魅力を引き出せる。

そう思われたからこそ、三月は冠番組のMCを任されるまでになったはずです。

それを正しい形で認めてくれる人はたくさんいるのに、三月にとってはあの一件が心に突き刺さったまま。番組の成功よりも、自分が誰かに認められることよりも、彼の心には優先して考えてしまうものが存在していました。

気持ちに寄り添う者 六弥ナギ

収録を終えたナギは、三月を取っ掴まえて(※申し訳程度のコメディ要素)彼の本心を聞き出そうと試みます。

ただ落ち込んでいるだけでなく、仕事に直接的な影響が出るほどに酷い状態。ナギも無理矢理にでも話を聞かなくてはと思ったに違いありません。

番組MCとして番組を盛り上げたいと思っているのに、それが"ファン"の要望に応えられないことだと感じてしまっている三月。

何とかどちらも満たそうと努力しても、それは絶対に両立できない相反する価値観で。どれだけ苦悩しても、どれだけ頑張っても、どちらかを切り捨てることでしか実現できない闇の中を、彼は彷徨い続けています。

「頑張らなくて良いです、ミツキ。
元気ない時は、頑張らなくて良いんですよ」

そんな三月が何に悩んでいるかを、ナギはきっと理解しているわけではないのでしょう。ただ彼が、何かによって自分を苦しめてしまっていることは分かるから。その"気持ち"にしっかりと寄り添ってあげることが、優しき六弥ナギが取る行動でした。

「そのままのミツキで良いです。何がいけませんか?」

誰かに相談に乗ってほしいわけでもない。誰かに助けてほしいとも思っていない。自分から手を伸ばすなんてもっての外。

それでもただただ辛くて、その気持ちを抱え込んでおけなくて、吐き出すだけ吐き出させてくれる人がいればどんなに楽になれるかと、そんな都合の良いことを考えてしまう。誰もが一度は陥るであろう窮地に、和泉三月は今正に直面しています。

「俺さ…」

そんな時、何も言わずに手を差し出してくれる人間が、無理矢理にでも手を掴んでくれる人間がそばにいてくれることが、彼にとってどれだけの救いになったことでしょう。

「…情けないこと、言っても良いかな?」
「いくらでも」

そうして"気持ち"を最大限に尊重してくれるナギだったからこそ、三月も心を開いて本心を曝け出せたのだと思います。三月の悲痛さにどうしても目が行きますが、ここはナギの本質を知る上でも非常に重要なやり取りです。

ようやく人前で自分に正直になれる。その安堵感と不甲斐なさを解き放ち、涙ながらに三月はその心中をナギに訴えます。

「――嫌われたくない…」

彼が口にしたのは、後ろ向きな自分の在り方そのもので。

「愛されたい」でも「好きになってもらいたい」でもなく「嫌われたくない」。

それがアイドルとしてどれだけ自己否定的な発言であることか。あまりにもダイレクトに、今の和泉三月の本質が表れた一言でした。

理想と現実 その先へ

IDOLiSH7のメンバーとして、一生懸命に尽くしてきたつもりだった。それは自分のファンを集めたいからではなく、グループ全体を好きになってもらいたいかったから。自分よりも他のメンバーが愛されること、その役に立てることが、和泉三月の喜びでした。

実際、彼はここまで自分のファンの話をしたことはほとんどなく、「自分がIDOLiSH7の役に立っていること」だけを指標に努力している雰囲気がありました。その人間性がここに来て、不幸にも視聴者の腑に落ちる形で繋がってしまった形でしょう。

「喜ばせたいよナギ…!
俺も…皆に喜んでほしいよ…!」

でも彼だって1人の人間で、1人のアイドルです。
自分の行いによって"ファン"に喜んでほしいと思うのは当たり前で。自分が頑張って"周り"に認められた結果、"ファン"に嫌われる人間になっているとしたら。一体、何のためにアイドルを続けているのか、分からなくなっても無理はありません。

その気持ちは1つ1つの自罰的な言葉となって彼の口から湧き出してしまい、喋れば喋るほどに自分で自分を傷つけ続けてしまうのです。

「泣かないでミツキ…。
誰があなたをこんなに悲しませました?こんな酷いことを…」

ナギは三月の想いを慮りながら、最大限に言葉を選んで対応して行きます。それは問題を解決するためではなく、彼の心をこの闇から救うため。そのために必要だと思われることのみを、彼の口から聞き出そうと試みました。

「…誰でもない。
誰でもないんだよ、ナギ…」

しかし三月は答えない。何故ならきっと、彼の心を傷つけたのは他でもない「IDOLiSH7のファン」だから。それを話すことは応援してくれているファンを傷つけ、彼女たちから力を貰っている仲間たちを傷つけることになってしまうから。

だから彼は絶対にその内容だけは誰にも話せない。どんなに苦しくても、理不尽な目に遭っていても、自分のせいで周りが傷つくことだけは許すことができない。

「俺の役割って何だろう…?
俺にできることって何だろう…?」

自分が傷つくのは、自分ができないからだ。間違っているからだ。弱いからだ。そうやって自分勝手に落ち込んでいる、自分が悪いんだ。

そうやって自分で自分を否定し続けて、見ているこっちまでどんどん辛くなるような感情を吐露して。そこまで自分を追い込んででも和泉三月には、変わらない叶えたい夢が、アイドルになりたかった理由があるようでした。

「街の中にあるたくさんの人の"好き"っていう気持ちに、どうやって応えれば良いんだろう…」

伝説のアイドル「ゼロ」に憧れて、幼い頃からずっとアイドルを目指し続けていた三月。彼にとって、アイドルは自分の"好き"その物。周りからの愛を受け取り、愛を届ける存在。その光だけを見てきた彼にとって、「アイドル」とは輝く理想そのものなのでしょう。

だからこそ、自分がそうなった以上は「アイドル」であらねばならない。自分のことよりも他人を優先して、向けられる"好き"に完璧に応えてこそ自分が目指した「アイドル」になれると、そう思っているように感じられます。

それもまた行きすぎた願いであると自覚して、目標に向けて歩み進めるのか。それとも今の理想を抱いたまま、この苦難を飲み込んで歩んで行くのか。どちらの未来も考え得るし、どちらも間違っているとは思いません。

ですがきっと彼は、何かの答えに辿り着くことができると思います。和泉三月はそれを実現するのに十分すぎる強い想いを、しっかりと持っているからです。

「――皆を幸せにしたいのに…」

大粒の涙を流しながら、悲痛に顔を歪めながら、心の底から出てくる言葉は紛れもない「アイドル」としての輝き。今はまだ粗削りだけれど、その想いが花開く時はきっと来る。

彼の気持ちに気付いて、それに応えてくれるファンも必ず現れます。その存在に気付けた時、彼は今より自分を認めてあげることができるはず。

その意志がある限り、這い上がるチャンスは残り続ける。その瞬間が訪れることを祈って、先の物語に希望を託します。

おわりに

びっくりするほど地獄。
どうしようもないほどに地獄。

毎週着実に"底"を更新してくれますね。でも2週連続で三月を落とさなくても良いだろ。人の心がないのか?

アイナナを取り巻く空気は善良なファンにも伝播し、事態はさらに混迷を極めていきます。迷走すればするほどに、彼らをより懐疑的に見て行く人たちも増えてしまう。そんな負のループが芸能人には存在していると思います。

ですが逆境だからこそ彼らを肯定的に見て「それでも応援しよう」「だからこそ応援しよう」と思ってくれるファンも現れます。そんなファンのやり取りが展開されたCパートは希望の塊で。無邪気な彼女たちの姿には、思わず涙腺を刺激されました。

解決していないことが山積みで、さらに怪しい空気を放つ部分も上乗せされる状況下。ゼロの曲のカバーが決まったRe:valeにも不穏な影が差し始めます(まだ乗せるのか…………)

もはや何がどのタイミングで取り上げられるのか、全く分からないほどに伏線だらけとなった『アイナナ』を、今後とも楽しんで行こうと思います。

ミリしらなりに今後とも熱量MAXの感想をお届けして行きますよ!それではまた次回の記事で!今回もありがとうございました!

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はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。美少女よりイケメンを好み、最近は主に女性向け作品の感想執筆を行っている。キャラの心情読解を得意とし、1人1人に公平に寄り添った感想で人気を博す。その熱量は初見やアニメオリジナル作品においても発揮され、某アニメでは監督から感謝のツイートを受け取ったことも。

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