アニメ 単話感想

『キンプリSSS』7話感想 なりたい自分に……西園寺レオの苦悩と選択!

2019年4月15日

イジメを受けた過去の傷跡

地元北海道でクリエイター職に就く両親と2人の姉、ファンシーな実家に囲まれて過ごしたレオくんは、その名前の方向性とは裏腹に、自身を男の子だと思わないほどに「可愛い」を求める男の子に成長することになりました。

優しい家族、好きなものに囲まれて過ごす毎日。
彼の何不自由ない生活を終わらせたのは、学校の友人達からのイジメでした。

男子からは、いつも女子と一緒にいる「女子みたいな男子」であったレオは、周りの成長と共に忌諱の目で見られるようになり、逆に女子からはいつも男子と一緒にいる「男子みたいな女子」として仲間外れにされるようになりました。

自分と違う存在、普通ではないものの存在を知覚できるようになった小学生というのは本当に残酷で、そういった存在を「異端」として排除することを正義だと思い込んでしまうところがあります。

これは感情や価値観の成長と共に芽生えてしまう当たり前のものであり、恐らく無くすことは適いません。特に性の価値観はこういった問題に発展しやすく、レオのような存在は格好の得物となってしまいます。

現にそのような悩みを抱えている人がリアルに存在する問題なだけに、ここにド正面から斬り込んだ話を提示することは、シナリオに深みを持たせることにこそなれ、非常に扱いが難しい方向に舵を切ったとも言え、クリエイティビティに富んだ勇気ある裁量だったと考えます。

劇場版ではイジメに利用されたツールが匿名掲示板風の学校裏サイト風のもので、表示される字幕がニコニコ動画のコメント機能を彷彿とさせる流れ方をしていました。一方TVオンエア版では、これが映像がLINE風のメッセージアプリのようなものに挿し代わり、字幕の表示もYoutubeのような固定表示のものに切り替わりました。

劇場に足を運ぶ世代とテレビアニメを楽しむ世代の差を考えて映像変更をしたのだと思われますが、これはつまりあくまでもイジメの現場を正確に伝えることを重要視していたということでしょう。でなければこの部分にこだわる理由がありません。

それは逆に言えば、辛い経験を持つ視聴者のトラウマを明確に想起させてしまうリスクを孕んでいます。それでもこのようなイジメが如何に陰湿で残酷で凄惨なものであるかを感じ取って心に刻んでほしいし、この話はそれを踏まえた上で救いをもたらすものとして創った。そんな製作陣の想いが伝わってくるようです。

「女は自分のできぬことができる女を妬み、男は自分がしたいことをする男を嫉むものだ」

ユキノジョウのこの台詞は、どんな年齢になっても通じる真理ではあるものの、今回に至っては少し難しすぎる話だったのでは…という気も。レオを責めたのは、そこまで完成された感情ではないからです。それだけユキ様が若くして"性"の本質に気付かされる立場にいる…ということでもありますが。

そしてここから姉達が「レオが女の子っぽくなってしまったのは自分達のせいである」と、自責の念に駆られるエピソードが抜粋されています。そう思える彼女達は本当に優しいお姉さんですし、心からレオのことを考えて泣いたものと思います。

しかしその姉達の姿を見たレオが、さらに自分を責め続けてしまったことも想像に難くありません。お姉様達を悲しませたくない、その一心で男らしくなろうと無理を始めたことが、彼を最も不幸なところまで追いつめる結果を生んでしまったのです。

さらに親から強く勇ましい獅子のような子になるようにと想いを込めて名付けられた「レオ」という名前も、この時は彼を苦しめる呪いとなっていたことでしょう。だから彼は自分の名前の由来をまず最初に皆に語ったのではないかと思います。

良かれと思って始めたことや言ったことが、巡り巡ってより悪い結果に繋がってしまうことが実際の人生ではあまりにもよく起こります。それが人間関係の本質ではあるものの、エンタメ物語ではそうならないことの方が多いように思います。

ここまで人の善意が悪い方向に動くよう練り込まれた作品も珍しく、あまりにも痛烈な展開です。これを視聴者が受け入れてくれると信じた上で創っている辺りが、非常に『KING OF PRISM』らしい力強さだと思います。

救いとなったプリズムショーとの出会い

そんなレオを勇気付けていた唯一のものが、家で見るプリズムショーでした。

最初に映像として飛び込んできたのが小鳥遊おとはのショーだったというのが、シリーズファンからすると本当に救いになったのではないでしょうか。

『レインボーライブ』では誰よりも人のために身を粉にして頑張ったおとは。周りを支えることを何よりも考え実行し、作品を支え続けた彼女は「女の子だって王子様になれるんです!」と言ったキャラクターでもあります。

そういった過去作の情報を考えると、レオが彼女を通して勇気を貰っていたということの説得力がより強まるというもの。チョイスも完璧です。

姉達の上京を機に共に上京し、彼女達からの誘いと薦めを受けてエーデルローズへ入学するチャンスを得たレオ。明るく語られてはいたものの、これも姉達が「レオのことを何とかしてあげたい」と自責の念に駆られ続けていたから起こした行動であるとも取れますね。

どこまでいっても優しいお姉さん達。だからこそ彼にとって…イジメられて引き篭もっていた過去を持つ彼にとって、「身近に姉がいる」ということの重要性は他のキャラの比ではなかったのです。

今までは善意が全てが裏目に走り、家族の中で苦しめ合う連鎖を起こしてしまっていた西園寺家。今回ももしかしたらそうなってしまうかもしれないリスクはあったはず。ですが、今回はそうなりませんでした。

レオがエーデルローズで今の仲間達と出会ったからです。めげずに家族が「レオのために」と行動し続けたことが、最も良い結果を最後に呼び寄せた。諦めなければ、きっと夢は叶います!

最初に後の仲間達の前で挨拶した時、きっと「自分はここでも受け入れられないんじゃないか」という不安が100%だったに違いありません。そんな時に年長者のカケルから真先にかけられた「可愛いよ」という言葉で得られた安堵、「認められた」という想いは如何ほどのものだったでしょうか。

だからタイガに「俺はお前のことめんこいと思ってねぇからな」とツンデレっぽく言われた時にも過剰に落ち込んでしまったんですよね。ああいうギャグっぽいやり取りにはなっていたものの「自分のことを誰にも否定されない」あの時間は、レオにとって半端じゃなく重要な関係性を得られた瞬間だったはずです。

エーデルローズに在籍しているメンバーは全員がマイペースで変わっていて「自分がおかしい」なんて思う必要がないほどに個性的な人達でした。レオが今まで出会ってきた人達と全然違った雰囲気の人達ばかりだったのかもしれません。

そうだからこそレオは、自分を臆面なく出して素の自分で皆と接することができるようになりました。エーデルローズで過ごす時間は全てが楽しかったし、全てが輝いていたことでしょう。衣装をデザインするという自分の才能を活かす場まで与えられて、彼にとって今までの人生が嘘だったかのような日々が待っていたんですから。

そのエーデルローズが無くなってしまうかもしれない危機を救ったシン君にベタ惚れしてしまうのも無理はありません。それが人間愛から来るものか、恋愛感情から来るものかは現時点では分からないところではありますが、自分の最も大切な場所を救ってくれた人に絶大な愛を向けてしまうのは当たり前のことですよね。

姉達が北海道に帰ってしまう。
自分も一緒に帰ってもいい。

姉が離れて行ってしまう事実は、心の支えをゴッソリ失ってしまうことに他なりません。でも、エーデルローズはもう彼にとってなくてはならない自分の居場所であり、「自分らしく」いさせてくれる新たな心の拠り所になっていた。

考え抜いた彼は北海道の実家に姉達と共に戻り、家族全員に自分の覚悟を告げます。

「今度のステージ、観に来てほしいんだ」

なりたい自分にプリズムジャンプ!

PRISM.1(華京院学園ミスコン)に出場するレオが身にまとうのは、可愛い衣装ではなく緑のスタイリッシュなカッコイイ衣装。普段のレオくんのイメージからしても、あまり見られない「男らしい」スタイルでした。

それはどこか蕾のようでもあり、芋虫(蛹)のようでもあり…。この時点で、多くの鑑賞者が彼のしたいことを理解していたのではないでしょうか。

今までのマイソングやアプリ『プリララ』の歌では前向きでポップな歌を歌うことが多かったレオくんですが、今回の曲は内に秘めた想いを解放する方向性。彼の意志の強さが至るところに見られるプリズムショーの出だしだったと思います!

笑顔いっぱいで軽快な振り付け、ウィンクも交えた誰かに気持ちを届けるためのプリズムショー。スタァとして「レオがしたいこと」が沢山詰まっているのがその動きや表情からもしっかり伝わってきます。

そしてお待ちかねの「プリズムチェーンジ!」
(プリズムチェンジは『プリパラ』のオマージュとも言えますし、『プリララ』における覚醒要素が「プリズムチェンジ」とされていることから、アプリオマージュと取ることもできます)

カッコイイ衣装から可愛いらしい衣装にフォルムチェンジ!剣をハートのステッキに持ち替え、蕾は開き大輪の花を咲かせ、幼虫は羽化し羽ばたく蝶となった。

可愛いという方向性ながらも、今まで決してスカートを履かず「男の娘」というキャラクターを維持した衣装をまとっていたレオくんが、初めてスカートを履いた瞬間!男の子だってスカートを履ける!女の子と同じ格好をしたっていい!

花開いたのはレオ自身だけでなく、ショーを取り巻く背景も!七色の花が咲き乱れ煌めきの花びらが舞い飛ぶ、幸せに満ち溢れた光景が我々の眼前いっぱいに拡がって行きます。

「私は可愛いものが大好き!」

男らしい自分を目指していたけれど、自分にもう嘘はつきたくない!自分は自分にしかできない生き方がある!

「私は私らしく生きていきたい!」

彼の本心から出た叫びはそのままプリズムジャンプ演出に!ステッキから大きなプリズムの煌めきを生み出し、ピンクのサイリウムを一面のお花畑に変えました。

「心の花を咲かせましょう!あなた色の花を!」

彼が口から紡いだ言葉は『KING OF PRISM』だけでなく『プリティーシリーズ』全体に脈々と受け継がれる根源的なテーマでした。女の子としての側面を持つ彼だから、歴代受け継がれてきたテーマを『キンプリ』にまで繋いでくれる架け橋になれた。それができるのは西園寺レオただ1人!

ここに至るまで、レオくんはどれだけの苦悩を経験したことでしょう。

男らしくないからイジメられたと女らしい自分を否定して、自分の好きを覆い隠して、無理をして違う自分を作ろうと苦しんだ。どうしてもその理想に近づけない自分を責めて、変わろうとしても変われない自分を恨めしく思っていたのかもしれません。

「皆と違うことを恐れないで!小さくても良い、綺麗な色じゃなくても良い!」

でも彼はエーデルローズに来て、仲間に出会って、シンや先輩の姿を見て、自分が本当に自分らしくあるべきだということに気付くことができました。困難を乗り越えて、迷いを吹っ切って、本当の自分を認めることができました。

そんな彼の口から出た数々の言葉。そして『オーロラドリーム』で銘打たれた「なりたい自分にプリズムジャンプ!」というこの『プリティーリズム』の原点とも言える台詞。心打たれないわけがありません。

「私、あなたのことが大好き!」

彼が最後に口にしたのは特別なものでもない、どこにでもある普通の一言でした。しかしここまで様々な困難に遭遇してしまったレオだからこそ、自分から誰かに「好き」を伝えるハードルもとても高いと思うのです。彼はそれを見事乗り越えて最高の笑顔を我々に向けてくれました。これをただ可愛いで片づけてしまうのはもったいないというもの。

これは1人の男としての価値観ですが、本当の「男らしさ」とは「自分の信じたものにまっすぐ立ち向かう勇気を持つこと」だと思います。それを体現したプリズムジャンプが彼の「マイトランスフォーム・ライオンハートフラワー」でした。

だからこのプリズムショーをしているレオくんを見て、僕は本当に心から「お前カッコいいなぁ…」と思いましたし、可愛い姿で可愛いショーをしていても彼は他のエデロ生達と同じく、1人の男の子として輝けていたと感じています。

なので最後に2人のお姉さんが

「カッコいい―!」
「可愛いー!」

と言ったのにはグッと来てしまいましたね。本当にどっちもだったから。

プリズムジャンプは心の飛躍。
今回も誰にも真似できないレオだけの「カッコ可愛い」プリズムショーを見せてもらえました。家族に守られてばかりだったレオが、今度は家族を導く存在に。迷い弱かった西園寺レオとの決別を表した最高のショーでした。

おわりに

非常に難しい切り口に挑みながらも、1話分という短い尺でしっかりまとめ上げられていたのがこの7話。

あまり暗い話に落ちて行かないようにコミカルな配慮が為されながら、それでいてレオの過去や葛藤を軽んじない絶妙な調整で組まれていて、非常に良質なストーリーに仕上がっていたのではないでしょうか。熱い物語とは違った緻密な1話に着地していましたね。

ちなみにレオは北海道でイジメに遭っていたので北海道が嫌いになったわけではない。地元のことも大好きだしイジメていた同級生達とも和解する場が存在しているはずと、監督が舞台挨拶で明言されていたので、こちらにも書き込んでおきますね。

こういったお話創りのバランス感覚はやはり、製作陣が女児向けアニメという非常に不安定な土壌をベースにした作品のプロだから持てているものなのかもしれません。

辛すぎると見てもらえないし、軽くしすぎると面白くない。そして伝えたいテーマを決して疎かにしてはいけない。そういったポイントの押さえ方を熟知し、技術に昇華しているからこそ短い尺で全てを過不足なく伝え切ることができている。

これは『キンプリシリーズ』に総じて言える素晴らしい点ですが、より情緒的なテーマを取り扱ったこの『スッスッス』の7話では、飛び抜けて優れた形で組み上げられていたのではないかと思います。

レオくんも今回の話で1つの結論に行き着いたキャラになります。ここからどのような新しい彼らしさを体現してくれるのか、先が見てみたくなってしまいます。今回は描かれなかった彼の衣装づくりに対するこだわりやそういった部分の葛藤、皆をどのように分析して創作に当たっているかなど是非見てみたいですね。

西園寺レオというキャラをより愛すことができる素晴らしい7話でした。『スッスッス』後半戦、まだまだ楽しんで参りましょう。

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はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。美少女よりイケメンを好み、最近は主に女性向け作品の感想執筆を行っている。キャラの心情読解を得意とし、1人1人に公平に寄り添った感想で人気を博す。その熱量は初見やアニメオリジナル作品においても発揮され、某アニメでは監督から感謝のツイートを受け取ったことも。

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