ドラマ/実写映画

『MIU404』分析&感想 第10話 「Not found」伝播する悪魔の意思

2020年9月3日

見えぬ敵は"人間"

決死の説得によって特派員RECの心を動かし、虚偽の情報提供者である浜田とのコンタクトに成功した伊吹と志摩。

志摩の作戦によって浜田の正体が久住であることをほぼほぼ確定させながらも、それさえも読んでいた久住の策略によって出し抜くことには失敗します。彼は事前にRECのPCを乗っ取り、利用することを考えていたのです。

成川の逮捕からRECを対処することを考えた時、RECの家に警察がやってくるのは容易に想像できる事態です。そこから自分に繋がる足跡を辿られないようにするのはもちろんのこと、逆にそこから情報を得ることまで久住は考慮に入れていました。

その思惑通りに事は進み「相手には一切の情報を与えずに一方的に情報を得る」状況を完璧に作り出しました。

しかしそんな彼にも誤算はありました。
まずはドーナツEPの出どころの目算がつけられ、その工場の窮地が今正に訪れてたこと。別行動を取っていた陣馬の地道な調査がここに来て身を結び、404の2人のサポート。未来への希望を繋ぎました。

久住にとってドーナツEPは有力な資金源であるのと同時に、自分に直結する情報が漏れてしまう危険性の高い存在。最優先で解決しなければならない問題です。そのトラブルの発生に久住が苛立ちを募らせたことで、ついに4機捜は戦うべき"人間"の存在に辿り着きました。

そしてそのトラブルが生み出した時間的猶予に伊吹の超聴覚が炸裂。マイク裏から漏れ聞こえてきた女性と出前太郎の会話を聞き取り、その内容から久住の居場所を特定しました。伊吹のみが捉えられる情報に絶対的な信頼を寄せている志摩の姿から、彼らがここまで積み上げてきた信頼関係の強さを感じさせてくれます。

久住は実態を持たぬ悪魔メフィストフェレスでもメケメケフェレットでもなく、姿形を持って東京に根を下ろす1人の人間である。ついにその全てをMIU404が確定させた時、久住が仕掛けていた隠し玉が打ち上げられたのです。

バタフライ・エフェクト

先日港区で落としたのと同じC4爆弾を

都内12か所に落とす。

時間は23時

ナイトクローラーRECのアカウントを利用してそう打ち込まれたメールを、久住は警察庁刑事局と警視庁宛に送信。実際にドローンが飛び立つ動画まで添付し、いたずらではないことを示唆します。

程なくしてつぶったー上ではそのドローンが着弾する動画や画像がシェアされ、それを拡散する者、爆発に巻き込まれたことを匂わせる者が出現。それら含めた全ての呟きが拡散されて行き、あっと言う間にSNSは東京に訪れたテロの話題で持ち切りとなりました。

警察にも同様にテロ事件に関する入電があり、事態は混迷を極めます。つい先日C4爆弾を使った殺人事件が発生したばかりであり、それを知る全ての人が「本当に起きた」と認識するのは無理もないと言った状況だったでしょう。

実際にテロが起きているのなら、周辺の人間は真偽を確認せずに逃げようとするはずです。そして当事者ではない東京近辺に住んでいない日本人は、ネットの情報を信じる他ありません。

乗っ取られた特派員RECのアカウントがその動画を取り上げ、彼のファンは「RECが呟いてるということは真実なのだろう」と思い込む。そうして彼に賛同するインフルエンサーが同様に話題に上げることで、その周辺の全ての人たちが非常事態を伝播させていく。

結果的に「多くの人が話題にしている」というあまりにも無根拠な理由で、彼らはいともたやすく洗脳されます。

仮に現地にいる者が「そんなことは起きていない」と真実を呟いたところで、誰も聞く耳を持つことはない。そう断言できます。

現実でも1万以上のRTを記録しているツイートがデマであったということは少なくなく、それを訂正するツイートが元ツイートより拡散されることはありません。多くの人はセンセーショナルな内容のみを拡散し、その背景にある情報を調べようとはしないのです。

最初はほんのわずかだったうねりが、誰もが気付かぬうちに多くの人を巻き込んでしまうこともある。1つの蝶の羽ばたきが、行く行くは大きな竜巻となって災禍を生み出す可能性も捨て切れない。そんな空想を現実にする事態を、久住は人為的に引き起こす準備までしていたのでした。

「404 Not found」

「右に行けば久住…左に行けば病院…」

小さな事件への執着を薄れさせるには、より大きな事件を引き起こしてしまえばいい。「それどころではない」事態に陥れば、人は目の前のものに対処することしかできなくなる。

「なぁ志摩ちゃん…死んだ奴には勝てないって言ってたけど…それ違うよ」

幾ら自分が大罪人だとして、所詮はたった1人の"人間"に過ぎない。より多くの人が嘆き悲しみ命の危機にあるとするならば、必ずそちらの解決を優先する。多数を助けるために少数を諦める。"正義"とは所詮、手に取れる範囲でしか行使できない脆い概念だ。

「生きてりゃ何回でも勝つ!チャンスが!ある!」

この世の中に、今まさに失われようとしている命よりも重いものはない。誰もにとって重要なのは"いつか"より"今"。次のチャンスがあるものは、ここでしかできないことより後回しにされる。そう、絶対に。

「…了解、相棒」

虚構でも人を信じ込ませれば真実となり得る。ならばこそ、自分は人を攪乱することだけを考えればいい。必要なのは掴まれかけた尻尾を切り落として逃げ延びること。彼らが握っている情報など、所詮「今の居場所」に過ぎないのだから。

「――"正義の味方"は辛いのぉ?」

実際に爆弾を落とす必要も、混乱を招くことも、人を殺す必要もない。それよりもずっと多くの人を一度に動かすことができる方法がこの世には存在している。ルールの外で行われるフェイクに、"正義"が対応できるわけもない。

「機捜404から1機捜本部…北目黒病院の爆発は確認できず。港区の爆弾使用殺人事件の犯人による攪乱だ!容疑者は20代、通称"クズミ"…!見た目の特徴は――」

情報を弄し、不必要な行動を誘発させ、自分に絶対に目が向かない状況を作り出す。

全てを掌中に収めて、未検出の男は悠々自適に街を闊歩する。

「――わかんねぇよクソぉ!!」

Not found.
正体不明の相手の足跡はまた失われ、物語は最終局面を迎えます。

おわりに

正体不明の敵と戦い、あと1歩のところで"敗北する"MIU404。10話にして犯人に辿り着けずに終了する唯一の回で、全てを抱き込んで去っていた久住に完全敗北を喫するエピソードでした。

実際のネットの動きとリンクする点が非常に煽情的で秀逸。同じくSNSで「#MIU404」をつけて実況したり、感想を漁ったりする多くの視聴者がゾッとさせられたのではないでしょうか。

そして久住が仕掛けた爆弾テロの映像やそれに踊らされるネット民、それらの動向を信じて動いた警察組織などを見て、「それらが全て久住の仕掛けたフェイクである」と見抜けた人はほとんどいないのではないかと思います。

最初は「どうせフェイクだろう」という冷めたメタ読みから始まり、だんだんと緊迫する状況を見て「マジでやってんのか!?」と認識を改めてしまう。感電が流れた瞬間には、機捜404の2人と全く同じ心境で「やられた…」と漏らしている自分がいる。そこまで含めた没入感を楽しませてくれました。

全く勝利の道筋が見えない幕引きとなりましたが、次回がいよいよ最終回。見失ったとは言え全ての情報が無くなったわけではありません。久住に辿り着くヒントは手元に残されています。

4機捜は果たして、諸悪の根源を打倒することができるのでしょうか。本当に楽しみです。

この記事も残すところあと1記事となりました。最後まで引続きお付き合い頂けましたら幸いです。それでは。

こちらもCHECK

『MIU404』分析&感想 全話まとめ 総計10万字「たった一瞬のこのきらめき」を語り尽くす12記事

続きを見る

『MIU404』分析&感想 最終話 「ゼロ」から始まる物語 まだ行こう誰も追いつけないくらいのスピードで

続きを見る

『アンナチュラル』から見る"秀才的"脚本家 野木亜紀子の巧みさ

続きを見る

 

  • この記事を書いた人

はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。美少女よりイケメンを好み、最近は主に女性向け作品の感想執筆を行っている。キャラの心情読解を得意とし、1人1人に公平に寄り添った感想で人気を博す。その熱量は初見やアニメオリジナル作品においても発揮され、某アニメでは監督から感謝のツイートを受け取ったことも。

-ドラマ/実写映画
-,

© 2024 超感想エンタミア