あんさんぶるスターズ!

キンプリオタクの『あんスタ』ミリしら感想 アプリ編㊺「輝石☆前哨戦のサマーライブ」

2021年6月1日

引用元:『あんさんぶるスターズ!!Basic』「輝石☆前哨戦のサマーライブ」

来るは「メインストーリー 第二部」。
アニメでも見届けたこの物語を、原作で改めて浴び直す時がやって参りました。

まずは1つ目「輝石☆前哨戦のサマーライブ」です。新ユニットEdenの片割れEveが登場する長編ストーリー。彼ら異邦人の介入によるセンセーションは、原作をここまで読み込んできたことでより強く大きく感じられるようになりました。

アニメでは第1クールから地続きの印象だったTrickstarの活躍についても、「改めて彼らに戻ってきた」という印象に。それだけで随分と感じ取れるものは変わるものです。

アニメで前後編の2話を使って展開されたストーリーの執筆は本当に久しぶり。その差を感じられる内容で、お届けしようと思います。今回もよろしければお付き合いくださいませ。

はじめに

さて「サマーライブ」の感想ですが、細かい内容についてはアニメの方の記事でしっかりと執筆しております。

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原作を読んだところ、「サマーライブ」は概ね忠実なアニメ化がなされていた印象(※むしろ他ストーリーからの追加シーンが多い)よってアニメの感想で書かれていることは、一部を除いて原作の感想としての価値も持っていると自分では思っています。

第2クールは作品感も掴めてきて相当内容に踏み込んでおり、「サマーライブ」も2話で約20,000字を書き下ろしています。こちらも是非合わせて楽しんで頂けたら幸いです。

正直「というわけで今回は終わりですあざっした」としても良いのではというレベルなのですが、そうは問屋が卸さないですよね。

ですので今回は少し趣向を変えて。2年分のストーリーが積み重なった状態で描かれた原作の「サマーライブ」が、一体どのような意味を持ったストーリーとして描かれ、語られたのか。そういった作品の構造面について、感じたことを書き連ねて行こうと思います。

もたらされた変化

「前哨戦のサマーライブ」は、何と言っても初めて夢ノ咲学院以外のアイドルが登場するのが最注目点。英智やつむぎと旧fineの一員として活躍していた巴日和が転校し、玲明学園のトップアイドルEdenとして初登場します。

今まで学院外部での仕事がフィーチャーされるストーリーはあれど、外部の人間が直接物語に絡んでくる内容はありませんでした。あくまでも夢ノ咲という箱庭の中で完結した物語が描かれ、争いや発展は全て内部での関係性に終始する。それがここまでの『あんさんぶるスターズ!』です。

外部からの宿敵の登場は、その安定の崩壊を意味します。内側で完結できるのは、ひとえに迫りくる外敵が存在していないだけに他なりません。踏み込んだことを言えば、学院生たちが「それを意識していないから」と言っても良いでしょう。

それが現れた以上、夢ノ咲学院という"全"はこの場においては"個"として立ち向かわなければなりません。

「昨日の敵は今日の友」と軽々しく言えるわけではありませんが、今までと同じやり取りでは新しい戦いを勝ち抜くことはできなくなる。それだけは確かです。今までとは違った形で関係性を結び、共闘して行かなければならない人間も当然のように出てきます。

例えば今回の序盤では、北斗が英智に対して警戒心を全開なまま対話をするシーンがあります。今まで通りであればそれは正しい対応ですが、今回から始まる物語では、学院内に壁を作ることは致命的な仇となり得る行為です。

北斗はサマーライブでの敗戦によって、その辺りの認識がはっきりと変容したことがエピローグで描写されています。もちろんキャラ個人個人を見て行けば、(特にTrickstarについては)それぞれの心境に大きな変化が起きているのは間違いないでしょう。

違和感は大きな高揚感へ

今までは感情を優先的に解釈すれば良い物語が基本。それがこの「第二部」では、打算と計算・利害の一致によって育まれる関係性が中心に据わります。それらは過去2年分のストーリーではほぼ排除されていた内容で、その領域に踏み込んだことは紛れもなく"新しい始まり"でした。

(※注釈:『あんスタ』は同じ年を何周もする作品ですから、厳密に言えば今まで読んできた物語の裏側にもその関係性は存在しています。しかしそれがオープンになったことで拡がる作品感をもって、"新しい始まり"としています)

それだけでも今までにないやり取りや会話を生むはずですし、転じて全く見たことがないキャラの一面を見ることにも繋がって行くと思います。そして最終的には、その上でどのような感情が輝くのかを見るのが『あんスタ』という作品の本懐です。

この新しい挑戦は、どことなく今までにない違和感を読み手に植え付けるもの。社会的かつ計略的な内容はゾワゾワとしたうねりとなって心を侵してくるのが分かりました。

Eveの2人はアイドル活動だけでなく、プロモーションなどにも手を伸ばす社会的地位のある存在。夢ノ咲とは全く校風を違える、玲明学園というアイドル育成校。そこに付随した北斗の父 氷鷹誠矢の情報、"あの明星"にまつわる後ろ暗い雰囲気。

提示される未知の情報(※世界観を拡張するレベルのもの)の多さでは「追憶」に勝るとも劣らない総量があり、その全てが未来に向かっているのは初めてです。そう考えると「サマーライブ」は作品全体に対し、過去最大規模の変化をもたらしたストーリーと言って差し支えないものだと感じました。

しかしながらその変化は決してネガティブなものではないのです。
『あんスタ』という作品が描くべきことの軸をブラさないであろうことには、ここまで読んできた者として確かな信頼を持っています。

故にこの気宇壮大な違和感もまた、ある種の高揚感へと変化し得るものです。また面白いことを始めてくれたなぁ。ここから先の物語を読むのが楽しみになったなぁ。そう心から思わせてくれるような内容を、しっかりと投げ入れてくれたと思います。

「前哨戦のサマーライブ」は「チェックメイト」直後となる日日日先生執筆のイベントストーリーですので、それだけ新展開にも注目が集まっていたと思います。そこをしっかりと期待感を煽る新しい物語で飾り上げる。その構成は、作品として実にスマートな形だと言う他ありませんでした。

プロデューサーの想いを1つに

原作とアニメの「サマーライブ」で大きく異なる点として、朔間零と天祥院英智によるあんずへの叱咤は拾っておかなければなりません。アニメの感想で参照しない方が良い内容があるとすれば、この部分だと思っています。

Trickstarが完全にEveの掌の上で転がされてしまったのは、Trickstarの育成とプロデュースに注力し切れなかったせいである。それはアニメ版でも同様に語られていましたが、どちらかと言うとその語り口は「学院全体に不足していた意識であった」という解釈に行き着くようなものだったと記憶しています。

ところが、原作ではこのパートはあくまで「あんず(転校生)の失態であった」と見える語り口になっており、なんかよく分からんままにめっちゃ怒られる羽目になります。恐い先輩と怖い先輩にめっちゃ怒られた。コワい。

しかし『あんスタ』の展開内容を見るにその理由は明白です。Trickstarをメインにしたイベントストーリーが、ここまで著しく少ない状態にあったからでしょう。

Trickstarが登場するイベントは過去に幾つかあったものの、それらのほとんどが合同ライブ形式。しかも主題をTrickstarではない相手方のユニット(もしくは特定のキャラの関係)に置くものばかりで、Trickstarの物語だったという印象になるストーリーは実は極わずかしかありません。

そのため『あんスタ』はメインストーリーにてTrickstarを主人公ポジションに置きながら、実際に触れる物語ではその他のユニットと密に触れ合っている時間の方が圧倒的に長い作品です。Trickstarが冷遇されていたとは言いませんが、衝撃度の高いストーリーの多くにTrickstarが(ユニット単位で)絡んでいないのも確かでした。

『あんスタ』はその作品特性上、誰をメインでプロデュースしている(と自分が思っている)かはユーザー個人個人に委ねられており、そこに整合性を求める必要はありません。ただしメインストーリーにおいて革命を成し遂げたのはTrickstarであり、SSに進むのが彼らであることは揺るがない事実でもあります。

よってSSに至るまでの物語を展開するのであれば、主人公は当然Trickstarとなります。つまりそのストーリー中は少なくとも、転校生がTrickstarのプロデューサーとして全力を尽くさなければなりません。

「皆に見届けてほしい」という想い

「祝いのニューイヤーライブ」によって彼らがSSで華々しい結果を残したことが先に明かされている以上、その経過はTrickstarがそれを達成するのに納得感のあるものである必要があるでしょう。それにはプロデューサーたる彼女の存在が必要不可欠なのは、「一部」の内容を参照すれば明らかです。

ですが『あんスタ』がこの段階までで積み重ねてきたものを思えば、「自分はトリスタPではないから」と言って「サマーライブ」に関心を持たない人もいたはずです。そしてイベントストーリーでの活躍が薄めだったTrickstarは、比較的「最推し」とされ辛い側面もあったのではと感じています。僕自身(アニメで掘り下げられているというのもあるものの)Trickstarについては、「安定」という気持ちを抱くことがここまで多かったように思います。

それ自体は楽しみ方として尊重されるべきですが、一方で「彼らがSSで輝くところはより多くの人に間近で見届けてほしい」というのが、生みの親が持つ真っ当な想いではないのかなとも思います。

ですからこのあんずへの叱咤は、「これから始まるSSに連なる物語の間だけは、皆にTrickstarのプロデューサーになってほしい」という製作サイドからのメッセージであると僕は受け取りました。

それを『あんスタ』風に表現するとあのような形になるのではないでしょうか。強気すぎるぞ(今更すぎるツッコミ)なんで常に過労死ギリギリのラインで仕事してるのにあんな風に怒られなきゃならんのだ。ブラックすぎるだろ。

一方のアニメでは2クール通してTrickstarがメインに据えられ続けており、彼女が他のユニットの仕事やドリフェスの準備をしているシーンの方が特別感のある構成となっていました。

よってアニメの内容では「サマーライブ」の段階であんずがTrickstarを後回しにしたと捉えるのは難しく、それを踏まえた台詞の調整が行われていたのだと思います。アニメでは意図的にあんずが他ユニットのプロデュースをするシーンが追加されているのも、この解釈の根拠の1つとなっています。

そして原作ではあくまでのこのイベントストーリーは「前哨戦のサマーライブ」。全体的に見ても確実に長編に挙げられる内容量であるにも関わらず、「前哨戦」という枕詞が使われているのも大きな特徴です。それだけより多くのプロデューサーに、一丸となって一部始終を体感してほしいという意志が込められていると感じます。

それぞれに最も愛するキャラクターがいるけれど、やっぱりTrickstarはどこか特別。皆の大好きなアイドルであり『あんさんぶるスターズ!』を象徴する存在である。

この「キセキシリーズ」は、多くの人がそこに行き着くためのストーリーとして始まったのではないでしょうか。

アニメでそれを感じてから原作に入った僕が、改めて"彼ら"を知って行く一連の物語。最初に感じたのと同じものもあれば、きっと全く違って見えるものもある。その全てをしっかりと堪能して行ければと思っています。

もう一度"奇跡"を

あんずがTrickstarに目をかけられなかったのは夢ノ咲の失策で、初めてとなる外部校との合同ライブは彼らにとって素晴らしい結果を生んだとは言えませんでした。

名目上は対決でないとは言え、生き馬の目を抜く芸能界では全てのステージが戦場となり得るもの。その現実を経験と実績を持って認識しているEveと、あくまで学院の傘下に守られて活動しているに過ぎなかったTrickstar。それぞれの意識差が、関係者に圧倒的な敗北感を植え付けました。

その大きな要因が自身にもあると告げられて、居ても立ってもいられなくなったあんずの姿がありました。

Tricsktarに酷いことをしてしまったと後悔し、その気持ちを昇華させて今できることを全うしようと努力します。

しかし、当のTrickstarがあんずを責めることなどありはしないのです。
自分たちの過ちの責任は全て、自分たちにこそあると彼らは考えます。たとえSSに出場することが決まっているとしても、他のユニットよりも優先的な対応・特別な待遇を要求することは決してありません。

いつだって気持ちはチャレンジャー。驕ることなく昂ぶることなく、目の前の事象から吸収できるものを探し出して糧とする。それができるからこそ、Trickstarは革命の寵児となり得ました。

どれだけ打ちのめされても、手玉に取られても、彼らにとっては全てが経験で財産です。下手に勝ちに執着せず、今4人で在り続けられることを誇りに思う。その精神性は誰の目から見ても尊ばれる輝きで、彼らを罠にはめたEveの2人にさえ確かな"可能性"を感じさせるものでした。

実力はまだまだの取るに足らないアイドルであっても、彼らが腐敗した夢ノ咲学院に真なる光を差し込んだことに不思議はない。そう思わせるだけの力が、Trickstarの奥底には確かに宿っていました。

それでも、そんな未来への評価を得ただけでは彼らも満足することはありません。勝てなければ悔しいし、勝つためにより努力したいと考える。周りに迷惑をかけず、自分たちの力でそれを手繰り寄せようと考える。盤外の力添えを前提に動くことを、彼らは最初から考慮していません。

それができる4人だからこそ周りは本心から力になりたいと思えるし、学院の代表としてTrickstarがサポートされることに誰もが異論を持つこともないのでしょう。

(ふふ、ほんとに仲良しだね、君たちは。それが君たちの最大の長所だ)

かつて夢ノ咲学院にて名声をほしいままにしたfineは、打算と計算で集められた仮初のユニット。最初はその輝きに多くの人が魅了されても、時の経過と共にその化けの皮は剥がれてしまって当然です。

人工的に生み出されたムーブメントでは、恒常的な光を生み出すことはできません。いつかは焼き切れて失われてしまう故に、それらを付け焼刃で補完して前に進むことを余儀なくされてしまいます。

(かつて夢ノ咲学院の主人公だった僕たちに、在りし日の『fine』に欠けていたものだよ)

得られる結果は望んだものかもしれなくとも、そこに残る感情と理は必ずしも望んだ形とは限らない。

皇帝として学院を掌握して、心と感情を捨てて前を向くことを選択した天祥院英智は、痛いほどそれを理解しています。

(羨ましいな。ううん……そんな君たちだからこそ、勝ってほしい。無慈悲な数字が支配する世界を覆して、僕にまた奇跡を見せてほしい)

だからこそ、自分と全く違ったやり方で理想の体現者となったTrickstarのことが愛おしい。敵対した全ての者からも同様にその感情を受け取れる彼らに、その全てができなかった英智が希望を託してみたくなるのは当然なのかもしれません。

引用元:『あんさんぶるスターズ!!Basic』「輝石☆前哨戦のサマーライブ」

これは全ての「前哨戦」。1つの敗北をより大きな力に代えて、目指すべき大舞台のために彼らは新たに走り始めました。

Trickstarが一際大きく輝く星となるための物語。その全ては、今ここから始まります。

おわりに

終わってみればキャラの話が著しく少ない(※あんずを除けば)記事になってしまいましたね。

個人的に巴日和がかなり好きなタイプのキャラ(と言うかEdenが全体的に好き)なので「おひいさんやっと会えた~!!」という気持ちはスゴいあったのですが、Eveの2人は改めて掘り下げることがほとんど見つからず。無理に書いてもアニメと重複するだけなので、思い切って未来に託すことにしました。

つまりおひいさんもジュンくんも、アニメでその人となりがしっかりと描かれ切るくらい裏表がないタイプのキャラクターであったということでしょう。

原作の『あんスタ』はキャラの感情がミステリーなので、原作で初登場のキャラは不気味な台詞から改めて人格を読み取る必要があります。直近で言えば、三毛縞斑はその必要があまりにも多いキャラでした。

「それがない」というのはある意味でキャラクター性。特に日和の方は、アニメと原作の乖離が非常に少ないのがとにかく意外だったと言わざるを得ません。日日日節全開の巴日和を読むのをかなり楽しみにしていたら、割とアニメでもそのまま抽出されていたのが分かった感じです(もちろん原作の方が"濃い"には違いないが)

ここに来てまた、全く考えもしていない新鮮さを味わわせてもらったなと思っています。今後のストーリーでより深いEveの2人の内面に触れるのが、より楽しみになりました。

そしてこうなってくると、Adamの2人がどうなのかは余計気になりますね。よりぶっ飛んでくるのか、Eveと同じくアニメでだいたいのキャラクター性は拾えているのか。そんなことも1つ気にするポイントにしながら、「キセキシリーズ」を楽しんで行こうと思います。

それでは今回はこの辺りで失礼しますね。超感想エンタミアのはつでした。次はまた「追憶」か…気合い入れて行きましょう…!

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はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。美少女よりイケメンを好み、最近は主に女性向け作品の感想執筆を行っている。キャラの心情読解を得意とし、1人1人に公平に寄り添った感想で人気を博す。その熱量は初見やアニメオリジナル作品においても発揮され、某アニメでは監督から感謝のツイートを受け取ったことも。

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