アニメ 音楽

『楽園への進撃』をまだ聴いていない『進撃』ファンへ。10,000字ロングレビュー

2018年9月23日

暁の鎮魂歌

そして 何時か 叶うなら
絡み付く因果 断ち切って
なぁ…友よ 壁のない――暁に逢おう

TVアニメ『進撃の巨人 season3』のEDテーマにして本CDの表題曲。

「暁の鎮魂歌」です。

この曲はまた凄い。本当に凄い。いつも凄い凄い言っているがいつも凄いから仕方がない。

個人的にはTVアニメタイアップ曲としては「紅蓮の弓矢」に匹敵し、追い越す名曲だと思っています。

まずこの曲が素晴らしいところはTVサイズでの完成度が異常に高いこと。尚且つ、EDテーマとしての役割を完璧すぎるほど完璧にこなしていること。そしてフルサイズになっても窮屈感なく、1曲として非常に高い纏まりを誇ること。その中に確かにRevoの良さが凝縮して詰められていること。

これも個人の感想ですが「紅蓮の弓矢」はTVサイズが完璧だったが故にFULLサイズであぐねた曲でした。「自由の翼」と「心臓を捧げよ!」はRevo曲としては完璧な楽曲でしたが、逆にFULLサイズありきの楽曲になってしまっていた傾向はあると思います。

今回「暁の鎮魂歌」はTVサイズでのパフォーマンスが「紅蓮の弓矢」に匹敵していると感じています。そしてFULLの完成度はLinked horizonに造詣が深くない方が聴く「一般的なアニソン」として間違いないクオリティ。

でも、これはRevoというクリエイターの良さが詰まった音楽なのです。形はRevoらしくなくとも、内容は確実にRevoの音楽そのものです。彼がアニソンに迎合したわけではなく、アニソンを自分に寄せて創り上げた1曲と言える。

Revoという邪道を極め抜いた男が創る、王道文化における1つの到達点。それが垣間見える楽曲です。『進撃の巨人』という作品に関わり続けたからこそ見えた、彼の進化の結果です。

「黄昏の楽園」同様に子供の合唱から始まり、Revoの歌唱へと同化するというのがED当日公開のサプライズ演出と噛み合ってるのがにくい。

そしてそこにさらにクワイヤの歌唱と演奏陣の半端じゃない音圧が加わり、ゆったりとした曲調とは裏腹に、その壮大さは過去最高クラス。Bメロからサビに向かう半端じゃない盛り上がりは正しくRevoの創り続けてきた音楽の神髄です。死神の旋律が脳内に響く…。

Cメロの崩し方にもRevoらしさが見えつつも、「Cメロ」という概念からは外れていない展開。そしてラスサビに向かうスタイリッシュな盛り上がりは最早「鎮魂歌」というより、決意を新たにする明日への「行進曲」のよう。

もっと言うとこの曲の感じとRevoの歌唱スタイルが凄いマッチしてて耳触りが半端なく良い。

実際、やはり今までのイメージで「OPっぽい曲」の方が受けが良いと思いますし、僕もどちらかと言えばそういう曲にテンションを上げてしまうタイプです。

でも、この曲が辿り着いた音楽的な価値はそれとはまた別のところにあるのではないでしょうか?

その1つで挙げておかねばならないのが、EDテーマとしての圧倒的完成度です。インタビューにおいて、Revoは「作品全体を俯瞰的な視点で語るOPテーマとは違い、各話の余韻として響かせるべき音楽がEDテーマだと思う」と語っています。

この曲は正に言葉の通り、『進撃の巨人』の登場人物を弔う鎮魂歌という形式を取る音楽。毎話新しく散って行き、そして今まで散って来た全ての命達を包括して世界を悼む楽曲です。

その歌詞も非常に特徴的。
どこか上から目線、神のような視点で『進撃』の世界を憂いています。

例えば、今回初めて起用されたアーティストだったとしたら、いきなりこんな作品の登場人物を下に見たような楽曲で勝負しようとは思わないのではないでしょうか。テーマソングという土俵でいきなり「知った顔をする」のは、反感を買う恐れもありリスクが高い選択です。

ですが、今まで『進撃の巨人』と共に歩んできたLinked Horizonにはそれができます。むしろ重ねてきた年月の重みを持つLinked Horizonだからこそ、このアプローチをファンもスッと受け容れることができるはず。

そして、作品と同一化するという稀有な側面を持った彼らだからこそ、その素晴らしさがより際立ちます。

作品の1つの象徴となった今だからこそ、キャラクターに言葉を投げかけるような楽曲を創り、EDテーマというフィールドで最高の仕事をすることができたのだと思います。

僕はこの曲が生み出されたこと自体がLinked HorizonがEDテーマを担った意味であり価値だと思いますし、「やっぱりOPが良かった」とは決して思いません。

EDまで活かし切り、放送時間が終わるまでの1分1秒全てで最高の時間を生み出すためにLinked Horizonの「暁の鎮魂歌」は無くてはならなかったとハッキリ言えます。

さらにLinked Horizonは作品の象徴でありながら、視聴者代表という立場でもあります。

過去の曲のフレーズを応用し「心臓を捧げた」のは作品に登場するキャラクターだけでなく、Revo自身であり、アニメを楽しみ楽曲を楽しむ我々でもある。そのようなRevoの想いが込められていると思います。この曲を通して自分だけでなく、ファンも作品と同一化することを彼は望んでいるようにも感じます。

作品に触れた者として、この「世界」を堪能し尽くしてほしいという強い意志。先陣を切ってそれを投げかけられるのもRevoだけであり、それを100%受け取れるのも我々のようなファンだけなのです。

黄昏から夜へ。夜から暁へ。
朝を迎えたからと言って明るいとは限らない。先の昏い過去を忘れてはならない。

間違いなく我々が『進撃の巨人』を楽しむために、新たな境地を見せてくれた名曲だと思っています。もっと売れてほしい。

歌詞カードの表記について

やはりLinked Horizonと言えば外せないのが歌詞カード。歌詞カードを使った世界観演出にも定評があるのがRevoというクリエイター。

『自由への進撃』は読み辛いことを除けば割と読めるカードだったと思います。『進撃の軌跡』は創意工夫を凝らしたものでしたが、読めないところはあまりなかった印象。ちょっと自分でも何言ってるか分からないから気にしないでくれ。

『楽園への進撃』は、「読めない」と評判のSound Horizonに大分近付いた感じ。「そろそろ君達も慣れただろう」というRevoの意思が伝わってくるようで笑ってしまう。

特筆すべきは「革命の夜に」を中心に、「黄昏の楽園」と「暁の鎮魂歌」に"分岐"しているように見えること。最後の方の歌詞が謎のところに書いてあるから買って見て読んで実感してほしいところ。

これは背負う物の重さと逃避したい現実。その厳しさで揺れ動く革命への決意と言った意味合いが込められているのかなと思いました。

あとは「花束」という歌詞が随所に登場する今回のCD。

これについて「手に持っている花束の絵」と「地面に群生している花の絵」で意味の違いを書き(描き)分けているのも特徴的。こういった絵を使った歌詞の演出についてはネタにされがちではあるものの、慣れてくると面白いです。

例えば「革命の夜に」のBメロで

「吹き荒れる風に 舞い落ちる 花弁は つki※○×△~」

と大方Revoの癖が出まくりで何言ってるか分からない部分(※ご愛嬌)の歌詞カードを確認すると

いい加減にしろ

ということが起こったりします。慣れてくると面白いです。読めるか聞き取れるかどっちにかしてくれ。

正しくは「月夜の胡蝶」という線が"有力"です。
正解はあなたの心の中に。それがRevoの地平線の世界……。

このように(どのように?)歌詞カードにも物凄くたくさんの考察ができる余地が残されています。

インタビュー内で「僕の曲に経験値を積んだ人は、曲を聴いた時点でここが"普通の表記ではない"ということを感じ取れたりするはず」ということも言っているのですが、その通りであることへの謎の敗北感のような優越感があったりもしますよね…。

歌詞カードは最初はネタにして楽しむので十分。でもネタにするところまでは辿り着いてほしい。

そうやって見て聴いているうちに、だんだんとそこに込められた意味を導けるようになると良いのかなと。そこまで楽しむともう引きずり込まれているのが分かってきますね。Revoの音楽の世界へヨウコソ。

そのためには是非、やはり歌詞カード付きのCDを購入して楽しんでほしいです。その価値がLinked HorizonのCDにはあると思いますので。

これも余談で違う地平線の話なのですが。
やっぱり「同じ悲劇何度も繰り返す」の表記にはなんかあるんでしょうかね…こう輪廻的な…。

[amazonjs asin="B07FYBGYCS" locale="JP" title="楽園への進撃 初回盤"]

おわりに

おい3曲しかないから楽だって言った奴誰だ(筆が乗った)

Linked Horizonとして3枚目となる『進撃の巨人』関連の作品。『楽園への進撃』は3枚目にしてマンネリを良しとしない新たな形を魅せてくれています。

『進撃の巨人』という作品の根幹がより露わになり、話がクライマックスに向かいつつあるという物理的事情。

Revoという1人のファンがそれを読み進めることで理解度を深め、その創作がより奥行を持ったという人間的事情。

Revoという1人のクリエイターが『進撃の巨人』に触れ続けることで、さらなる進化を見せたことによる音楽的事情。

それぞれが複雑に絡まり合い、完全に新しい音楽を生み出していく。その「現時点での回答」が描かれているのがこの『楽園への進撃』という音楽作品です。

作品について「もう『進撃の巨人』は良いかな…」と思っている人もいるでしょう。CDについて「2枚目までは買ったけど今回は…」という人もいるでしょう。

そんな人にも今一度帰ってきてほしいと思える作品だと思います。

現に、僕も進撃の3期の部分って全然記憶に残ってなかったんですよ。4か月ごとにコミックスを買って読んでいるだけだと話が複雑すぎて忘れてしまって…。正直面白いかも自分の中で曖昧という状態でした。

それを踏まえて1つ言わせてほしいのですが…。このCDの発売をきっかけに一気に原作を読み直した結果

進撃の3期部分の話とんでもなく面白かったです。

複雑な話だからこそ、一気に読むと人物の心情の変化とか信念の尊さとか、全部が折り重なって滝のように流れてくるんですよ。コミックス1冊ずつだと激流の川くらいだったのが、まとめて読むと滝でした。

Linked Horizonの作品の良さはこういった作品を振り返るキッカケにもなり、復讐……復習の機会を作ることにもあります。音楽という短い時間で「聴き返せる」媒体と作品が繋がっていると、その音楽を聴く度にその作品の内容を思い出すんです。

これはゲーム作品『ブレイブリーデフォルト』についても同様です。普通のゲームだと数年経ったら街の名前とか全部忘れてますが、この作品については曲になっているので全部覚えてます。

だからこそ『進撃の巨人』を好きな方にこそ、作品をずっと好きでいて、色褪せない思い出にするためにLinked HorizonのCDを手に取ってほしいです。

音楽の記憶というのは作品の記憶とは全く違うところで強く強く、脳の内に根付かせます。それは決して、他の作品ではできない体験となってあなたの記憶に残ります。

願わくばこの記事を読んで、1人でも多くの方がこの『楽園への進撃』を手に取ってくれることを祈っております。

"便宜上楽園"で皆様が来るのをお待ちしております!!『進撃』を超えてリンホラの方にも心臓を捧げに来てください!!イェーガー!!

  • この記事を書いた人

はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。美少女よりイケメンを好み、最近は主に女性向け作品の感想執筆を行っている。キャラの心情読解を得意とし、1人1人に公平に寄り添った感想で人気を博す。その熱量は初見やアニメオリジナル作品においても発揮され、某アニメでは監督から感謝のツイートを受け取ったことも。

-アニメ, 音楽
-, , ,

© 2024 超感想エンタミア