夏組が完成し、新たな一歩を踏み出したMANKAIカンパニー。装い新たに、そして成長した自信と誇りを持って次なる公演の成功を目指します。
1人1人が強い個性を発揮しながらも、前6話で展開された春組の意志と情熱を引き継いでいるであろう新生夏組。
彼らが一体どんな活躍と物語を見せてくれるのか。この8話もしっかりと見て行きましょう。
目次
より細かく演劇を知る物語
今回は新たなユニットの幕開けということで、演技素人が必ず経験するであろう基礎レッスンにスポットが当たる物語でした。春組が台本を持って稽古をするシーンが中心だったのに対し、夏組ではまず"基本"の積み重ねがフィーチャーされました。
演技未経験者が大半という点では春組と夏組の構成に差はないのですが、春組は「ゼロの状態から一本の舞台を成功させなければならない」制約上、台本を持って稽古する姿が中心に描かれました。これは物語の方向性を一貫させるための工夫だと思います。
記憶ではいづみの個人課題のノートに基礎的なことが書き込まれていたはずなので、春組も当然やっていなかったわけではないでしょう。その物語の都合で省略された描写を夏組が拾うことで、「春組も最初はこんな感じだったんだろうな」と空想できる創りになっていると感じました。
エチュードは芝居の基本であり、現実でも演技経験者なら恐らく全員やったことがあるような内容です。逆に、経験のない人にとっては全くピンと来ないレクリエーションのはず。春組を通して演劇に慣れた視聴者であれば、演劇のより細かいところに興味を持ってもらえると考えてのストーリー構成でもあると思います。
演技というものは与えられた役になり切ることより、自分で考えた役になり切る方が簡単です。板の上では場合によっては、自分の頭の中に存在しないような振る舞いを求められるもの。なので初心者は台本を持つと台詞を言えなくなってしまったり、他人とまともにやり取りできなくなることも珍しくありません。
そのハードルを超えるために、まずは自分自身の中で完結できることから練習していく。即興劇はアドリブ力や対応力も必要だし、演技の素地を磨く練習として最適です。階段の一段目、というイメージですね。
演技を取り扱った作品だと、このエチュードでの振る舞いはキャラクターのパーソナリティの提示として細かく機能します。この8話でもエチュードで見られた部分とその後の読み合わせの内容によって、夏組の個々のスキルと個性が見られる仕上がりでした。
例えば1つ、向坂椋くんで考えてみましょう。彼はエチュードの時は何となくこなせていたものの、台本を持ったらそれ以上にガチガチになってしまいました。ここからは椋の演技スキルとは別のところにある、個人的なメンタリティを感じ取ることができます。
このようにエチュードは「その役者が何を考え、感じているか」を芝居の上でより明確に見定めることができる方法であり、その汎用性の高さから一般的に広く使わています。フィクションにおいてもそれは、キャラの読み解きを深めてくれる要素となるのです。
その他、皇天馬が経験者としてイキってマウントを取っていましたが、その裏で彼の発言もエチュードの本質性を伝える意味合いが強いものでした。物言いには、ちゃんと説得力があるんですよね。
春組の物語は「演劇の面白さ」という総合的な概念を伝えることに重きを置いていた印象ですが、夏組はもう少し踏み込んだスキル的な面からキャラを楽しむことができる内容なのかなと8話で思いました。
「泣かせる芝居よりも笑わせる芝居の方が難しい」といういづみの発言も、かなり真に迫ったところがありましたし、その辺りもチェックして行こうと思います。
皇天馬の人間性
今回は実質的に天馬のお当番回に見えたので、彼について一筆深めに行こうと思います。
体裁上はやはりイキり高校生。ただしそれ相応の実力と論理性・熱意を持っているので、十分に"本物"を感じることができる「プロの有名俳優」たる彼。
他人に強めに出る一方で、相手から指摘されるとそれを意識してしまう歳相応の分かりやすさがある少年でもあります。言われれば治したいと思っているようですね。その辺りが少しばかり不器用で可愛げがあります。
リーダーに任命された際も「自分がなって当然だ」という高慢な態度は崩さなかったものの、その後はリーダーとしてベストを尽くそうと苦悩している姿が印象的でした。
立場を利用して自分の意見を絶対に通そうとはせずに、周りの意見や不満を読み取って考えを改めようとする。その立場に相応しい人間になるための努力は怠らない。そんな真面目さや聡明さも見せてくれました。
彼は根本的に、芝居については「ちゃんとしたい」だけなのではないかと思います。若くて実力もキャリアもある身分です。その中で最も的確な解答として、「自分が前に出て自分の言う通りにするべき」が1番に来るのは当然でもあるでしょう。
その考えが人格に影響してしまっているので、場合によっては嫌悪されたり煙たがられたりするのもまた、今はまだ仕方がないというところ。咲也との会話で「個人がベストを尽くす方が大事」と言っているように、下が上に付いて来られるように努力するべきという価値観も根元にありそうです。
尖ってはいるが偏屈ではない
天馬のこの価値観を読み解くにおいて、彼が映像文化圏から来た役者ということは押さえておきたいところです。
映像芝居は舞台芝居と異なり、長い期間の稽古を行うことがありません。またシーンを個別に細かく撮ることや撮影期間が厳密に決まっていることなどから、本番中であっても役者同士の交流が舞台よりも希薄です。
その分、短い時間で1つ1つの場面を的確に演じる技量が問われる文化で、作品のクオリティアップには役者の個人力が必要不可欠。一度幕が上がれば稽古の密度とその場の勢いの方が重要となる舞台とは、似て非なるものなのです。
天馬はプロとして活躍する人気若手俳優であることから、普段一緒に演じている役者は相応にレベルが高い玄人ばかりのはずです。それぞれが現場でベストを尽くした結果、問題なくアンサンブルが成立することも多いでしょうし、全員で切磋琢磨して演目を完成させること自体にピンと来ないのだと思います。
しかしそんな中で観た春組の芝居に心惹かれた彼は、咲也のアドバイスを1人の役者として真摯に受け止めました。恐らく彼の方が演技自体は上手いだろうに、そこについては一線引いた考えを持っているわけです。
どのような経緯で彼がMANAKAIカンパニーを選んだのかはまだ分かりません。ですが、その理由が皆で1つのものを創り上げた時に得られる高揚感の中にあることには、どこか納得しているようにも見えました。
その辺りの理解力・実行力はまだまだ及ばずというところ。しかしそれもまた、彼の人間性含めていづみを中心とした年長組には理解され始めています。
尖ってはいても、偏屈ではない。
そんな分かりやすさがある少年です。
今後より高みへと飛んでくれることに期待します。
今回活躍したキャラクター達
では、今回も1人ずつ気になったところを記載して行きましょう。
瑠璃川幸
役者としては今のところ可もなく不可もなく。勝気な性格の通りに前に出ることにあまり抵抗がないというのは、演技初経験者としてはアドバンテージでしょう。
今回は椋とセットで対比的に見えるキャラクターとして描かれていた印象です。
性格はどちらかと言うと男っぽいのに、目指しているところは姫気質。エチュードでも率先して女子校生を演じるなど、内面的には女の子っぽいところがあるようです。
ドライでリアリストなところはあるものの、人をしっかり見ているし物事の判断は感情で行うタイプに見えます。どんな活躍を見せてくれるのか、次回以降に期待です。
向坂椋
役者力が絶望的に低い椋くん。
演技力がないという点では綴も同じようなものでしたが、彼は文字通り「演技力が無かった」のに対し、椋はそもそも"演技"という概念が理解できていないイメージ。
最初の最初で蹴躓いてしまっているものの、努力と練習で乗り越えた先には違った世界が待っているかもしれません。まだまだ中学生。その身体には無限の可能性がある。頑張って。
椋は幸と対称的に、見た目も性格も女の子っぽいのに、目指すものは「王子様」というタイプのキャラクター。
いかにも少女漫画が好きそうな感じではありますが、その登場人物の王子様に強い男性的な憧れ(同一視)を覚えるようですね。珍しいキャラかもしれません。
だから演技にはまだまだ不慣れなものの、できるだけメインで活躍してみたいという欲求だけはある。一方でリーダーのような"自分自身"が前に出ることには奥手。リーダーに天馬を指名したのは、実力主義たる体育会系出身なのも関係しているかも?
部活で名を馳せてから怪我による引退という大きな挫折を経験した過去もあり、自分の根幹にある「王子様に近付く」という理想を貫いて演劇の世界へ。気弱なように見えて、考え方にも大きな達観や芯の強さが垣間見えます。
想像以上の複雑性を抱え込んだキャラで、どういう活躍をしても不思議ではないと思います。この8話で、今後が非常に楽しみになりました。
三好一成
チャラ男兄さん。
今回の活躍は控えめ。
ノリは軽薄なものの特に不平不満も言わない"光"の体現者。夏組の中では年長組・クライアントの要望に応えるデザイナーでもありますし、周りに合わせる大人な価値観は持っているように思います。
役者としてもお得意の頭の回転の速さで順応力高く振る舞えまています。初回公演はコメディかつ旧知の仲である綴による当て書きなこともあり、あまり大きな問題は起きないのではと考えます。
ただ、それだと彼の見せ場がどう作られるのかが全く読めません。表面的にはインパクトの強い彼ですが、内面的なことは全くと言って良いほど不明です。今はとりあえず、今後に期待としておきましょう。
斑鳩三角
何者だ?
(まぁそういうキャラだろうとは思っていたが…)
やたらと芝居慣れしているようですが、パーソナルな部分は今回でも完全にブラックボックスに。
自分から演技を生み出すよりも、他人の芝居を受けて返すことを得意としている雰囲気を感じました。憶測ですが、彼は超憑依型のタイプの役者ではないでしょうか。「自身に何かを下ろすこと」にステータスが全振りされている印象。
春組のみの段階では描写的に咲也に憑依型の気があると思っていましたが、三角はその上を行く特化型に思えます。ただ詳しいことは8話の情報からはさすがに読み取れません。少なくとも天馬が論理で芝居をするタイプなので、三角は論理ではなく感覚で芝居を行うキャラであった方がバランスは良さそうかなと。
そもそも何故MANKAIカンパニーにいたのか、どのような過去を持つのかなど、前提からして不思議すぎる存在。語られるまで待ちましょう。やはり丸いおにぎりを手渡してみたい。
皆木綴
前回の経験からか、執筆状況をチェックしてくれる人がいなくなってしまった(そっとされすぎてしまった)模様。ちゃんと寝ろ。
脚本家というポジションで今回も中枢に関わる春組唯一の存在に。「全員が主役になりたい」という要望をアラビアンナイトをモチーフにすることで解決するなど、手際の良さと振る舞いの余裕で一気に大物感が増しました。
綴に限った話ではありませんが、春組のメンバーもいづみも成長値が目覚ましい。6話が遠い昔のことに感じられるほどに、夏組に切り替わってからの彼らは堂々としていますね。
正直、6話で1つのユニットの物語がしっかり区切られて終わってしまうということに物足りなさがあるのではないかと思いましたが、そんなこともなくすっきり見られているので驚いています。
関係性の作り方が上手いのでしょうね。今後も春組のキャラが活躍するのを見るのも楽しみです。
立花いづみ
久々にカレー女!
ネタに留まらず、監督として非常に的確な動きを見せてくれるようになり頼もしい限り。
春組の期間中は役者達と共に振り回されている印象でしたが、夏組に入ってからはキャラクターとしての魅力がグッと引き上がったように思います。5話での真澄との会話が、メンタル面で大きな転機になったのも影響がありそうです。
役者としての才能は残念ながら…ではありますが、大物舞台人の血を引いていてかつ、芝居に携わっている期間は誰よりも長い彼女。実はかなり見所が多い存在だと思います。
『A3!』は彼女の活躍込みでストーリーの拡がりが練られていますし、彼女自身には妙なキャラ付けもなく1人の女性として違和感がありません。それでいて物語の中心にいる人物としてしっかりと存在感があるので、非常に心地良いバランスで存在してくれています。
彼女個人を読み解くという感じでは今のところありませんが、物語のキーマンであるのは間違いありません。作品全体を彩るキャラとして、楽しませてもらっています。
おわりに
夏組は春組と全然違うメンバー、全然違う課題を抱えているのが特徴的。それを拡げる形で、物語で語られる部分もまた全然違う形式になっていると思います。
春組は感覚的に演劇の面白さを伝えてくれてなかなかにハッピーでした。夏組はより詳しいところに触れてくれているので、経験者としてはまた違ったインスピレーションが湧いてきます。
『A3!』は本当に優しい気持ちで見られるし、それぞれの活躍が分かりやすく描かれていて全体構成もスマートです。物語的にも題材的にも記事を書くのが気楽で、非常に楽しませてもらっています。
9話以降も光ある物語が展開されることを信じて、楽しく視聴を続けようと思います。今後ともよろしくお願い致します!
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