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【超感想】アニメ『鬼滅の刃』総括 名作史の上に立つ奇跡の物語 面白さとヒットの理由を徹底分析

2021年1月25日

引用元:アニメ『鬼滅の刃』キービジュアル

性別関係なくあらゆる世代を巻き込み、飛ぶ鳥を落とす勢いでエンタメ業界を牽引している『鬼滅の刃』。その風評に違いなく、素晴らしい作品だったと思います。

遅ればせながらアニメ全話を視聴し終えたので、感じ取ることができたこの作品の良いところ・ヒットの要因を"全肯定"でつまびらかにして行こうと思います。

素晴らしい作品には評価される理由があります。1つでも多くことを分析し、お伝えできたら幸いです。それではどうぞ。

非常に美しい台詞回し

『鬼滅の刃』を語る上でまず押さえなければならないのは、「台詞回しの美しさ」についてでしょう。

印象的な台詞が多いと言うよりも、正しく丁寧な日本語で綴られた台詞が多いと言った感じ。ほとんどの台詞がお手本のような言葉遣いで描かれており、それがそのまま作品の空気感となって全体を取り巻いています。

この分かりやすくスッと心に入ってくる台詞回しがあることで、どんな人でもその世界に没入する素地ができていると思います。『鬼滅』自体が和を基調とした作品なこともあり、この粗雑さがない言葉遣いがより作品の下地に浸み込んでいるのです。

本来であれば、文語表現はその堅苦しさから人を選ぶ傾向があり、漫画であっても万人ウケするスタイルではありません。アニメともなるとその堅苦しさは説明臭さに変わるため、そのまま映像にしても冗長で違和感のある作品になってしまいがちです。

しかし『鬼滅の刃』に至っては、その違和感こそが作品の世界観に引き込まれる大きな理由の1となっています。

と言うのも『鬼滅』のアニメは、その原作の持ち味をそのままアニメに活かすことが考えられています。それを念頭に置いたアニメになっているおかげで、原作の台詞表現の巧みさをより多くの人に伝えられる映像作品へと昇華しています。

「アニメ向きではないから」などの理由で原作の良さを削ぐことなく、できる限り多くの人に原作の魅力を伝えられる最高のアニメを創る。そんな製作スタッフの意志が感じられる作品ですし、だからこそアニメを機に原作にハマる人が物凄い数になったのだと思います。

また、その台詞回しを魅力的に表現してくれている声優さんたちの技術も捨て置けません。特にアニメ序盤は主人公である竈門炭次郎のモノローグが非常に多く、この台詞回しの美しさを細かく堪能することが可能です。

あの台詞ともナレーションとも言えない語りには、『鬼滅』の持つ台詞回しの魅力がふんだんに詰まっています。それ故に感情を込めすぎても聞きづらく、かと言って説明っぽく読むと面白くない。そんな難しいバランスの演技が必要とされる難所を、炭次郎の声優である花江夏樹さんはしっかり突いてくれています。

個人的には序盤の炭治郎のモノローグが、アニメ『鬼滅の刃』の根源的な魅力を最も象徴的に見せてくれていると感じています。

それを踏まえ、この作品を飽きずに見られた要因の1つとして、まずこれを挙げたいと考えました。

生きた人間のように魅力的なキャラ

次に『鬼滅』の大きな魅力と感じている部分は、活き活きと描かれているキャラクターの存在です。

要素自体は少年漫画のセオリーに沿っているものの、その生き方や11つの反応に確かなリアリティがあります。急にキャラがそのキャラらしくない意味不明なことを言い出すなど、視聴者(読者)を「は?」と思わせるような展開やシーンがほとんどありません。

これが前提にあるおかげで全キャラが浮世離れしすぎておらず、まるで現実に生きている1人の人間かのような生き様を見せてくれています。「あぁこういうキャラよく少年漫画に出てくるよね」と最初は斜に構えていても、途中から露わになる各キャラの人間味に惹かれてしまった。そんな人も多かったのではないでしょうか。

これは作者の吾峠呼世晴先生が、非常に人間の思考や生き方を多様に理解していることによって体現できている魅力だと思います。

例を挙げると、最終回で視聴者を恐怖の渦に陥れた鬼舞辻無惨のあのシーン(※俗に言うパワハラ会議)。あれは「無惨ならこう言われたらこう返すだろう」が非常に綿密に練られていることで実現した理不尽です。

「逃げようと思っているな?」→「いいえ思っていません」→「嘘をつくな」などがいわゆる"テンプレ"のところ、「お前は私が言うことを否定するのか?」という一言を入れる。これだけでグッと無惨というキャラの恐ろしさが強調されるのです。

「血を分けて頂ければ~」→「身の程を弁えろ」なども同様に。これだけなら普通のやり取りですが、「お前は私に指図した」という(そこ気にするんだ)と思わされる台詞があることが恐怖を増長させ。見る者をよりゾッとさせるキャラ像を確立しています。

こういったキャラの性格や人間性を感じられる台詞が全編通して随所にあり、その細部に至るまでのキャラへのこだわりが多くの人を魅了して止まないポイントとなっています。

実際には"よくいる"タイプのキャラばかりでありながら、そこに確かなオリジナリティを滲ませてくる。目の肥えた人をハッとさせる奇抜なキャラではなく、あくまで多くの人に受け入れられる王道少年漫画そのままに個性を見せている。

それが『鬼滅の刃』のキャラクターが、老若男女問わず多くの人たちにしっかりと受け入れられている理由でしょう。

そこから前述したような洗練された日本語表現によって、的確に心に溶け込む台詞を我々に届けてくれるわけですから。ダークな雰囲気の作品ながら、年端も行かない子どもや普段アニメをあまり見ない人たちでも、振り落とされずについて行ける丁寧さ・優しさがある作品だなと思わされます。

同情される鬼 許されざる悪行

『鬼滅の刃』と言えば、やはり敵側に回っている鬼たちの「鬼になった理由」や「過去の思い出」も非常に魅力的な要素です。

炭治郎が「鬼は悲しい生き物だ」と言っている通り、彼らにはそうなってしまった理由があり、必ずしも完全な悪人であるとは言えない事情が存在しています。

人間を食うことでしか生きて行けなくなった以上、どうしても人を殺さなければいけなくなった者。今の生を真っ当にするのに全力を注いでいるだけの者。無惨という頭の機嫌を損ねないように必死な者など、表面的には同情の余地がある鬼ばかりが登場します。

悪人は最初から悪人であるわけではなく、何か理由があって悪人となる。その背景に思いを寄せることができなければ、新たな悪人が生まれ続けるだけである。

そんな現実の理をそのまま反映したかのような語り口が、『鬼滅の刃』の物語の中枢を担っています。

ただ、どんな事情があっても人を殺すことは許されざる悪行。多くの人を虐殺してきた鬼は、その理由に関係なく相応の報いを受けねばなりません。よって『鬼滅』のストーリーでは(アニメの段階では)同情を促しこそすれど、人を殺した鬼が救われるシーンは1つとして存在していません。

そのため、登場する鬼の多くが1話~2話で退場してしまうのが特徴的で。アニメの全26話だけでも相当な数の鬼が登場し、すべからく命を落として行きます。

この部分だけ話すと「キャラを使い捨てている」とも感じられる作風のはずなのですが、『鬼滅』には不思議とその感覚がありません。どの鬼も魅力的なキャラクターに感じられるし、11人が生きていた証がしっかりと作品に根付いているように感じられるのです。

鬼の背景や過去はほぼ全員について語られているとは言え、そこに与えられた尺は決して長くありません。鬼によっては数分の語りも与えられていないにも関わらず、必ず何かは心に残してくれています。それだけしっかりと印象付けられる話創り・映像創りが徹底されているということでしょう。

たった一言二言だけでも、その鬼の過去に想像を馳せることができる。「何となく可哀想」から始まり、「こんなことがあったのかもしれない」と自分なりに考えることができる隙間がしっかりと用意されている。それが『鬼滅の刃』の深さであり面白さです。

それが説明されすぎず、かと言って分かりにくすぎない内容で描かれているのがお見事です。

あまり鬼全員の過去に時間を割くと全然話が進まないですし、話も難しくなって退屈になってしまいます。過不足の無さこそが、『鬼滅の刃』の大きなポイントの1です。

少年漫画としての魅力を維持したまま、大人が見ても想像して楽しめる内容だからこそ、万人ウケしているところも大きいでしょう。考えれば考えるほどに、絶妙なバランスで描かれている作品であると感じざるを得ないのです。

技術の粋を尽くした「最強のアニメ」

『鬼滅の刃』は原作が元々持っていた魅力はもちろんですが、アニメだからこそ表現された魅力も捨て置くことはできません。アニメが放送・配信を通して多くの人の目に留まったことが、現在のスマッシュヒットに繋がっているのは確かだからです。

アニメ制作を行ったUfotableは数々の名作を生み出してきたヒットメーカーで、現在のアニメ業界ではトップを争う知名度と人気を誇る制作会社の1つです。そのUfotableの圧倒的な技術力を持って体現された『鬼滅』のアニメは、言うまでもなく最高峰の映像と音楽で我々を魅せてくれました。

2021年における「最強のアニメ」を見たいのであれば、『鬼滅の刃』を見ておけばとりあえずは間違いない。

そう言い切れる圧倒的なアニメであったことは間違いありません。『鬼滅』の放送は2019年ですが、今でも十分に最高峰のクオリティと言える作品です。

もちろん人によって「最高のアニメ」は変わりますし、世の中には『鬼滅』より面白いと思う作品を知っている人がたくさんいるでしょう。しかし普段アニメを見ない人に1作勧めるなら、抜群に手堅い選択なのはどの角度から見ても明白です。それほどまでに途轍もないクオリティのアニメであると思います。

「ネームバリューのある原作」「圧倒的に分かりやすく魅力的な物語」「業界最高峰の映像」「業界最高峰のBGM」「印象的なOP・EDテーマ」など。アニメとして手放しで絶賛できる要素が『鬼滅の刃』には全て詰まっています。

そしてその上に乗る声優さんたちの演技。
これについても紛れもなく「業界最高峰の声優演技」を堪能できる名作です。

まずキャスティングが豪華の極み。声優さんの名前をある程度知っている人であれば、どこかで見たことある名前・聞いたことがある声の人ばかり。

他の作品なら主役級の知名度と実力を持つスーパースターたちが、たった12話で退場する鬼や人間にもすべからく当てられています。

「あまり出番のない役だから無名の人で良いだろう」という甘えさえなく、全てがスター級。累の家族もパワハラ会議で虐殺された下弦の鬼も、しっかり全員が有名声優。驚きのキャスティングです。

しかもそのスター級の人たちが、最高の映像と音楽に負けないように全力の芝居を見せてくれています。考え得る「プロの最もオーバーな演技」でないとアニメに合わないため、とにかく鬼気迫る圧力と熱量の芝居をぶつけてくれているのです。

豪華声優陣の妥協ない全力の声優演技。正しく「本職の声優さんでないと絶対に表現できない」と言い切れる凄まじい芝居の応酬で、その点においては本当に非の打ち所がありません。

このように細かく見て行くと、『鬼滅の刃』は何から何まで限りなくパーフェクトに近い作品であることが分かります。日本アニメーションの魅力を隅から隅まで楽しめる、そんな珠玉の1作であることは疑いようのない事実でしょう。

数十年分の名作を煮詰めた物語

最後に挙げておきたいのは、やはりストーリー展開と設定の分かりやすさです。

非常にスタイリッシュでテンポも良く、(グロさはあるものの)見た目にも豪快で非常にキャッチーな展開が終始続いて行きます。見ていて全く飽きが来ない創りな上に展開にストレスもなく、見る者を確実に『鬼滅』の世界に没入させてくれる精度を持っているのは間違いありません。

一方で「言うほど面白いわけではない」「期待していたほどでは…」という声が挙がっているのも事実です。これについても単なる好みの問題と言うわけではなく、明確な理由があるように感じました。

と言うのもアニメ『鬼滅の刃』で語られているストーリーと設定は、過去に提示されてきた名作(特にジャンプ作品)に順じているところが多いからです。王道作品ではだいたいやり尽くされてきた要素によって、この作品の世界は彩られています。

ですから、今までにたくさんの作品を見てきた人であればあるほど「どこかで見たことあるような感じだな」と思ってしまうところが増え、その分だけ心の盛り上がりが削がれてしまいます。

作品を楽しむことに慣れている人ほど「今までに見たことがない斬新で衝撃的な作品」を求めるようになりますし、『鬼滅』ほどのヒット作になればそれを期待して見始める人も多いでしょう。ですが『鬼滅』はあくまで少年誌で連載されている王道作品。その多くを「これから知る人向け」に創られている作品です。

それを「めちゃくちゃ流行っているから」という理由で期待値を上げすぎて見てしまうと、「詰まらなくはないが騒がれているほどではない」と感じる人が出てくるのは仕方がないと感じます。

逆に言えばそれだけ「過去の名作の良いところが詰まった作品」になるわけですから、それらを通ってきていない人ほど凄まじい衝撃を受ける作品とも言えるのです。

アニメや漫画に精通してきた人たちにとっては「面白い作品」の1つ。ただし普段アニメや漫画を全然見ない人たちにとっては、数十年かけて煮詰めてきたエンタメの真髄を1作で見せつけられる作品。それがこの『鬼滅の刃』です。

現在に至るまでに『鬼滅』が描いたムーブメントの軌跡を振り返ってみれば、そのことにも納得が行くのではないでしょうか。『鬼滅』はアニメ放送終了後になって急速に支持を拡大した作品ですし、その時からいわゆる"一般層"を巻き込んでのブームが始まりましたから。

常軌を逸した奇跡の構成力

では『鬼滅の刃』は過去の名作のパクりということになるのでしょうか?主観による側面もあるとは言え、これについては「否」として良いと思います。

そもそも過去の名作の要素を含んでいない作品など現代において創れるわけがなく、仮に作者がオリジナルだと思っている部分もどこかで何かと被っている可能性が高い世の中です。僕が『鬼滅』で感じた他作品との類似点も、"たまたま"そうなったものなのかもしれません。

その要素を使って生み出される物語が、他と全く同じであることはほぼあり得ないこと。要素の組み合わせと作者のセンスによって生み出される世界観こそが、その作品にとってのオリジナルです。ですから、他作品と同じ要素が入っていることを"パクり"と呼ぶべきではありません。

そして『鬼滅の刃』のストーリーのスゴさは、その要素の組み合わせ方にあります。本来なら崩壊する量の要素を1作に詰め込んだにも関わらず、それが濃縮されて最高の物語に仕上がっているという大変稀有な作品なのです。

大抵の場合、要素を多く含んだ作品ほどまとまりが無くなり、単純に詰まらない駄作になりがちです。これは料理において無差別に食材と調味料をぶち込むと、ただのクソまずい得体の知れない何かになってしまうのと同じだと思ってください。

冷静に考えて、1作に名作の多くを詰め込んだ作品が面白いはずがありません。それなのに『鬼滅』は何故かその崩壊を起こしておらず、奇跡的に優れた作品としてこの世に体現されました。

これが『鬼滅の刃』の最も優れている点だと言って良く、それを成立させている理由こそがこの記事でしっかりと語ってきた内容に繋がっていると思っています。

作者のセンスや日本最高峰の技術力が1つの作品に結集したことで、この凄まじい作品は世に解き放たれました。

現在のヒットは過大評価というわけでは決してなく、全て確かな理由があってもたらされたヒットである。

僕はそう思っています。

おわりに

『鬼滅の刃』の面白さとヒットの理由を分析し、紐解いて参りました。

今を持って何故これほどに面白いと感じてしまうのか、その全てを言葉で説明するのは難しいというのが本音です。しかしそれをあえて分析して言葉に紡ぐならこうなる。それがこの記事で書いてきたことだと思って頂ければ幸いです。

正直なところ、アニメではまだ『鬼滅の刃』の骨子しか見えてないと思っており、この作品の真のオリジナリティが発揮されるのは、現在公開中の「無限列車編」以降からだと感じています。

実はこの記事は映画を観る前の状態で執筆しており、冷静にこの作品の構成力を文章化できる段階で1記事をと思いしたためました。

原作を最後まで読んでいる方々は『鬼滅の刃』のもっともっと面白いところをたくさん見ていると思いますが、現在の爆発的人気はアニメと映画までのストーリーで既に実現できたものとしておくべきでしょう。

であればアニメまでの『鬼滅』をもって、その面白さとヒット要因を評価しておくのが道義だと考えます。その先の印象については、この感想をベースにして更新して行こうと思っています。

「無限列車編」を観終わった後には、是非またその映画の内容を感想記事にしてみたいですね。この記事を書き終えてから鑑賞に行くと決めていたので、ようやく足を伸ばせそうです。

機会がありましたら、是非また感想記事でお会い致しましょう。超感想エンタミアのはつでした。それではまた。

  • この記事を書いた人

はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。二次元イケメンを好み、男性が活躍する作品を楽しむことが多い。言語化・解説の分かりやすさが評価を受け、現在はYouTubeをメインに様々な活動を行っている。

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