僕は去年くらいから、気が向いた時に「気になってたけどあまり聴いたことがなかったアーティスト」のCDをレンタルなどで聴いてみるというのをやっているのですが。2017年末に聴いた米津玄師の『BOOTLEG』が名盤すぎて未だに唸ってしまうので記事にしようかと思いキーボードを叩いています。
僕はニコニコ動画の民だったので、「ハチ」の曲は好きでよく聴いていました。
なので彼の曲には数年来の馴染みがある聴き手ではあります。しかしながら、メジャーアーティストとなってから1度手に取ってはみたものの、それ以降あまり積極的に聴くということはない存在になっていました。
こんな記事はそんな米津君を改めて聴き直し、ハマるまでに至った体験記です。よろしければお付き合いください。
僕の中の米津玄師(『BOOTLEG』を聴く前)
僕にとっては『Bremen』が米津玄師デビューでした。
それで「これ!」という尖った曲に出会えず、結果「うーん、やはりハチと米津は別物として見た方が良いのかな」と思って終わってしまう微妙な印象に。
補足しておくと決して悪かったわけではないのです。『Bremen』の楽曲は音使いこそ特徴的であれポップな曲が多いなという印象でした。それが「求めていたものと違った」という感じ。
後に分かることですが、あのアルバムは米津玄師の中でも、取り分け万人ウケが意識された内容だったそう。ハチのテイストを求めて米津玄師を聴くという意味では、あまり良い入りではなかったようです。
でも、TVからたまたま流れてきた米津の曲は、その時一瞬聴いただけなのにずっと頭から離れない。その曲が入っているアルバムは『BOOTLEG』というらしい。せっかくなのでそのアルバムも一応聴いてみよう。
そこにこそ僕の求めていた米津玄師がいたというわけです。
というわけでここからが『BOOTLEG』を聴いて感じた米津君(という呼称を使わせて頂きます)の天才的だと思ったところです!
1.歌詞を活かし切る独創的リズム感
米津玄師は言葉選びのセンスや独特の世界観を持つ歌詞も特徴的ですが、僕は音楽はメロディから入る人なので、ここについてはまだ深く語るレベルにいません。
ただ聴いていて圧倒的に感じるのは、様々な言い回しを活かすことができる独自のリズム感を持っているということ。
歌詞というのは、ただ漫然と思いついたことを書けば成立するものではありません。技術的なこともありますが、一番は「メロディにどう乗せるか」というのを考えなければならないのが、こういったブログなどのライティングとは一線を画するポイントかと思います。
そしてシンガーソングライターであれば、自身が生み出せるメロディラインに適合した言葉や文節を選ばなければ、その歌詞を曲にすることができません。だから歌詞に採用できる言葉、音節の流れは、必然的に自身の音楽性に左右されるところがあります。
米津玄師は、自分の言葉を正確に音楽に落とし込む能力が高いと感じます。だから、特殊な言葉選びで歌詞を書いて、それを曲にすることができる。悩まずに創れる…とはもちろん言いませんが、「悩めばどんな言葉も曲にできる」と思えてしまうところが凄まじい。
普通に考えたら「その歌詞の配置はおかしい」と思えるような歌でも、耳障りが悪くなることなく綺麗に仕舞い込んでしまえる。しかも、そういう小手先の小気味良さだけを得意としているわけではなく、オーソドックスな流れの穴を埋めるようにそういった技術を発揮させることもできるのです。
それでいて、そのメロディのバリエーションを活かし切れる語彙力や世界観、言葉のセンスがあるのだから彼が時代を象徴するミュージシャンの一人として輝いたのは、自明というものでしょう。
それは僕レベルの聴き込みでも、彼だけが出せる「理想の音楽」が無限に存在しているのではと思ってしまうほどです。
2.強い音を使わずに「強い曲」を創っている
最近のロックバンドは激しいながらも綺麗にまとまっていて、そこにどこかJPOPらしい健気さがあるのが特徴的。
僕らはX JAPANやBOØWYなどの影響を受け、更に力強い方向に発展したゴリゴリのロックバンドなどで育ってきました。ギターは唸り音は重なりドラムは爆速という歪んだ音を好んできた世代なわけです。
最早一つ古い時代の人間になっている自覚はありますし、哀しいことに最近の流行りのアーティストの曲を聴いても「良いけど、なんかこう!もっとこう!」と思うことが増えてしまった。『Bremen』で感じたのもそれと近しい感情だと思ってください。個人的にあのアルバムはその域を出てこなかったのです。
米津玄師の曲は広義ではロックに括られるものが多くはありますが、無数にあるロックナンバーの中では取り分け控えめな音使いに違いはありません。『BOOTLEG』を聴き始める前「今回も満足できないのでは…」という懸念はありました。
でも『BOOTLEG』の楽曲達はそうではありませんでした。
確かに音は軽い。これは事実です。しかしこのアルバムの曲は、軽い音を細かく繊細に取り入れ、配置し、時に大胆に使い分けることで、激しい音に頼らずに迫力を出すことに成功しています。
音を強めるのではなく、ダイナミックな進行と音創りで「曲を強めている」とでも言いましょうか。
正に職人技。これはハチとして培った技巧が色濃く出ているところかもしれません。月並みな表現ですが、「深い音」なのです。そして深い音は芯が強い。
音をどう使い「音楽」を創り上げるかの見詰め方に、また特別なセンスが発揮されているのではないかなと思いますね。
3.声が音楽に合っている
声が良い!!
馬鹿みたいな言い方だが大事なところだ!
声が良いというか声が音楽に合っているというイメージ。
良い声の人は沢山いますが、歌手の場合、パターンは大きく分けて2つ。「声そのものが魅力的」という人と「音楽に合った声をしている」という人かと思います。
米津玄師はどちらかと言えば後者ではないでしょうか。とは言うものの、声その物も普遍的な味を持つ間違いないものです。万人受けする中低音持っています。ですが、それに増して彼の声は本当に彼の創る音楽に合っているなぁと思うのです。
音楽と声はセットで考えられることがどうしても多いので、例えばAさんの創る音楽を繰り返し聴いていると、Aさんの声が曲とセットで再生されるようになる、というのはよくあることですよね。
合う合わないに関係なく「合うようにさせる」というのもアーティストのパワーでしょう。しかしある程度最初から適合したものを備えているに越したことはありません。
そして米津玄師はその適合率が高い。
確かな親和性を声と音に感じます。
シンガーソングライターにとって、自分の声の強みを活かした作曲を心掛けるのは一般的なこととは思いますが、その音楽性と自分の声がベストマッチするかどうかはまた別問題。誰もが自分の声を聴いて音楽性を磨くわけではないですからね。
自分の持っている唯一無二な音楽性を、自分の声が更に十二分に活かし切っている。
これもまた良い巡り合わせに恵まれないと実現しないことではないかと。それを敢えて「抜群の声の良さ」という表現で書き記しておきたいです。
言葉、音、そして声。
彼を支える三拍子は本当に高いレベルでミックスされ、珠玉の音楽を体現しているのだと感じています。
[amazonjs asin="B0756GPDSX" locale="JP" title="BOOTLEG"]
まとめ
米津玄師というアーティストに触れて日は浅いですが、僕自身も表現者の端くれであり、音楽を楽しむようになって長い身ですので、彼の良いところは身に染み入るように伝わってきます。
それくらい『BOOTLEG』というアルバムはパワーがある1枚だったのです。2017年に聴いたCDの中でも取り分け印象に残った1枚になりました。28年半も生きていると、心から凄いと思えるものに出会う機会は少なくなってしまいますから、これは本当に良い出会いだったと言えるでしょう。
『BOOTLEG』は「ハチ」の頃から持っていた彼の世界観や独自性と、メジャーアーティスト「米津玄師」として活躍して得た大衆性の混合が図られた意欲作。それをとんでもなく高いレベルで完結させたアルバムになっているのではないでしょうか。
今後の彼はもっと凄い音楽を創ってくれるのかもしれないなと、にわかながらに感動を覚えてしまうクオリティでした。(※2018年追記)その1つの答えが2018年にリリースされた「Lemon」という楽曲の爆発的ヒット、それに伴う大躍進という形で現れたと思います。
『BOOTLEG』の発売日的に旬を逃しているとは思いますが、僕にとってはセンセーショナルな新しい出会いです。そんなわけで「米津玄師」という大きい基準で見ての感想を書かせて頂きました。
「米津?最近流行ってるよね」というレベルの認識の人達にも一度手に取って聴いてみてほしいなぁと思いますね。僕のように全く新しい気持ちを得られるかもしれませんので!
良い音楽、良いエンターテインメントは人生を豊かにします!
興味が出たら是非触れてみて下さいね!