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【超感想】『ヒプノシスマイク(ヒプアニ)』第10話 「麻天狼 VS Fling Posse」自分らしく生き抜く者達

2020年12月11日

麻天狼 VS Fling Posse

ステージ上に揃った両チーム。
各々の矜持が火花を散らす中、寂雷は乱数の異変を確かに感じ取っているようでした。

しかし戦わずしてそれを確認することもできません。自身に命の危機が迫っていると知ることもできず、寂雷率いる麻天狼はヒプノシスマイクを握ります。

「Bring The Beat!!!」の掛け声と共に、勇み足で飛び出した一番槍は観音坂独歩。自身の緊張を振り払うかの如く、半ば勢い任せで戦地へと飛び込みました。

足手まといにはなりたくない
寂雷先生の顔立てたい

しかし紡がれるリリックは、単純に韻を踏んでいるだけの素人仕込みのような内容。リズムにも乗り切れておらず、思考が全く音楽と状況についてこれていないのが丸分かりです。

楽勝です 超絶な俺のスキル
えっと…えっと…あぁ……

ついには二の句が繋がらなくなり、攻撃自体が不成立に。貴重な先攻のアドバンテージを潰してしまう大失態を犯してしまいます。

フリースタイルバトルは生き物同然。練習してきたものを自分の土俵でぶつけるパフォーマンスとは一線を画しており、当然このようなことも起こり得るでしょう。

彼らが即興で戦いに挑んでいることを明確にしてくれる1シーンとなりましたが、麻天狼にとっては大きな痛手です。

オイオイオイ!
テメエのケツ テメエで拭け!
ケツまくれ ケツまで韻踏む!
Information 指示待ちかよインカム

その隙を見逃さず即座に切り込んでくるのはFling Posse有栖川帝統!

元々リズミカルかつ速度のあるラップを得意とする彼にとって、不完全な独歩のラップなど格好の獲物です。

相対的な印象も相まって、彼の優れたラップスキルから繰り出されるリリックとライムが確実に独歩を飲み込んで行きます。

オイ! かたやそこのホスト
=女の血ィ啜るカスとリーマン
勝つと利になる? 旨味ねーじゃん

ノリにノッた帝統は、そのまま2番手である一二三にも先制攻撃を仕掛けます。一度波に乗ればその勢いは天井知らず。本懐であるギャンブラーの魂が、ラップバトルにも存分に活かされています。

先攻を取ったはずの麻天狼が一撃の攻撃さえ行えないまま、圧倒的リードを取ったFling Posse。先週の戦いでは先攻完全有利かと思われましたが、何もないところから先陣を切るのにもリスクがあることに気付かされました。

相手の動きを踏まえて、反撃からアドバンテージを取る方法論もある。それを見せつけてくれた帝統の実力は、そこにいる誰もが目を見張るほどのものがあったでしょう。

BATTLE BATTLE BATTLE

嘘を嘘で固め 内に籠っちゃ駄目
夜の街出たらね 通らないデタラメ
ダイバーシティ シンジュク

そんな友の失態をカバーすべく、立ち上がったのはシンジュクNo.1ホストである伊弉冉一二三です。帝統の煽りには乗らずに次手を持つ夢野幻太郎に狙いを定め、1から再び自分の流れを作り上げて行きます。

僕は愛のFandom そんな運命
King of リア充
だから真実しかないんだね

あくまでも相手に合わせることなく、自分の世界観に相手を落とし込んで染め上げる。彼を象徴する黄色い薔薇は足元から幻太郎を縛り上げ、身動きを封じます。

まるで敵対者さえも自分の輝き演出する1つの装置であるかのように、全てを彼色に染め上げて行くのです(※ただのサービスシーンと言ってはいけない)

リア充の王様? とはそれは異な事を
いやいや否応が無く 悲劇のリア王

しかし自分の世界の上で戦うことにかけては、幻太郎も決して負けてはいない。むしろそれこそが彼のフィールドであり独壇場。たとえ相手が完璧に作り上げられた人間だとしても、新たに創り上げる物語の前では1人の登場人物に過ぎません。って言うかリア充という言葉1つに反応しすぎなのでは?

愚者達しか見えぬ背広
嘘で覆う皮膚の鎧
垢のごと剥がれる呪い
我らその身呪詛で纏い

幻太郎がフィクションという嘘を意のままに操る騙り屋だとしたら、ホストを演じ切る一二三もまた甘言と詭弁を弄して立ち回る商売人。果たしてどちらが本当の嘘つきで、どちらが本当の愚者なのか。

その含蓄ある解釈と知識で、相手が気付かぬうちにジワリジワリと追い詰めていく。それが夢野幻太郎のやり方でした。嘘と真の差など個々人の認識の違いに他ならず、そこにある"事実"に大きな差はない。意味の全ては通じずとも、その呪詛は確実に対象の心を蝕み破壊するのです。

攻撃のチャンスを失い華麗にカウンターを決められ、終始リードを取られたままの麻天狼。

何とか攻撃に転じたいところで、出番はリーダーの神宮寺寂雷に回ります。

君が声奪った 我が友を愚弄する
淀む色染まった 君はモノクロームです

彼はあくまで乱数に対象を絞って攻撃をスタート。ここまでに鬱積した個人的なメッセージをラップに秘めて、乱数の心へとぶつけて行きました。

どこでどうし何を見て
何を聞き何を思い
君を駆り立てた
何故君はそう成り果てた

変わる前の飴村乱数を知っているからこそ、あの時あの瞬間から"そうなってしまった"乱数に憂いを向けずにはいられない。その全てをつまびらかにして因縁を清算する。この戦いをそのための"場"としても良いという思いが、寂雷のラップからは伝わってきます。

ヒプノシスマイクを通して交わされる言葉は感情由来。発露される本当の気持ちは昔の関係を想い、相手を理解しようとする強い願いのようなもの。攻撃的な口調の中に、寂雷の本質が垣間見える気がします。

「――いちいちウザいんだよ!!」

それでも、その気持ちも今の乱数には届かない。彼は応えようすることもなく寂雷の拘束を振り解き、敵意剥き出しで最期の攻撃へと身を投じます。

自分らしく乱数らしく

「俺の10万ラッキー、お前にやったぜ」

そんな乱数が真正ヒプノシスマイクを握る寸前、乱数の手を止めたのは他でもない彼の仲間たちでした。

「台詞が違いますよ。主人公は明るく楽しく盛り上げて、最後に華々しく敵を倒す」

帝統の言葉を抱き込むように、夢野幻太郎もそれに続きます。彼らは何も考えずに流れで声をかけたわけではないでしょう。

乱数がいつもと違うことを感じ取ったからこそ、彼を勇気付けるためにラップ前の行動を遮ったのだと思います。

「そう、小生の小説の主人公は、あなたなのですよ」

裏で乱数が抱えているもののことなど、彼らは知り得ない。彼がこの戦いのために平静を失っているのか、それとも裏でもっと他の何かと戦っているのか。その判断は彼らにはできず、2人がどこまでを読み取って発言しているのかも我々には分かりません。

「だから主人公らしく、乱数らしく勝ちましょう」

ただ今この場において彼が抱えている闇を取り払う。そのためにできる最良の行動を彼らは選んだに過ぎないのです。

「僕らしく…」

ですがそれこそが今の乱数に最も必要なものでした。
狂った心に寄り添ってくれる仲間たちの存在こそが、「いつもの飴村乱数」を取り戻させてくれるもの唯一のものだったからです。

幕間で一郎が言った「乱数…良いメンバーを集めたんだな」という台詞。それがここに来て乱数の胸に返って行きます。

彼が自分で集めた最高の仲間たち。ありのままの飴村乱数を認め必要としてくれる者たちが、今の彼の隣に立っています。

オネーさん見てる~?
超退屈な状態 飛び出して
乱数のショータイムにご招待!

何が本当の自分で、どれが"自分らしく"なのか。それを決めるのは自分自身。

仲間に、そして自分を求めれくれる全ての人に望まれる"飴村乱数"の姿。それを自ら選び取り、彼は自分の生きる道を決めたのです。

彼らしく乱数らしく。戦うことを中心に置かず、目の前の相手を倒すことよりも周りを盛り上げることを優先する。『ヒプアニ』を通して一貫されてきた彼の姿勢を、このディビジョンバトル決勝の舞台でもしっかりと表現してくれました。

特にイライラさせる 偉そな大型犬
うざいうざいうざいうざいうざーい
ホント目障りだBoooo!

もちろん寂雷へのディスを忘れることはなく。しかしそれも相手を憎んで恨んで叩き潰そうとするリリックは紡がず、"乱数"として的確に相手を煽る言葉を選んでぶつけました。

「なんか…キャラ変わった…?」
「いいえ、これが本来の…飴村くんです」

その寂雷の言葉には、一体どのような想いが込められていたのでしょう。

憎たらしい相手が憎たらしいままに存在することへの嫌悪でしょうか。それともかつてを振り返り、「失っていないもの」の存在に安堵する側面もあったのかもしれません。

ですがどちらにせよ言えるのは「本来の飴村乱数はラッパーとして脅威である」ということです。

この戦いにおいて彼が本調子を取り戻したことは、麻天狼の劣勢をより強める結果しか生まない。その事実は、寂雷の険しい顔から確実に伝わってくるようでした。

衝撃

人はみんな援護 失えばThe End
ホスピタルも ホストクラブも
集うLoveを

またも全体攻撃を決められて、防戦一方の麻天狼には1つの切り札がありました。

それが神宮寺寂雷の保有するラップアビリティ。味方を回復し復調させる回復行動です。冷静に考えてラップで回復って意味分からないというツッコミはもうやめよう。

戦争などを含めた無法状態で行使すればこの上ない戦力となり得るアビリティです。手中に収めれば確実に戦力の回転率が向上するため、政府が優先的に拿捕したいと思っているのも頷けるでしょう。

ですが実質ターン制バトルであるディビジョンバトルでは、回復さえも1つのラップ行動。その時間は隙を生み出し、反撃のチャンスを相手に与えてしまうことにも繋がります。

そうこなくっちゃ それこそがPosse
底無しの豪勢なライムのフルコースだ

その存在を知っている乱数は、準備していたと言わんばかりに即座に3人での攻撃に転じます。

倉庫の文庫ありたけ掘り起こすさ
草稿無しで放つ 愉悦の言葉

仲間と呼吸を合わせた3人が放つラップは、しっかりと仲間の内容を加味した韻を踏み抜く圧倒的クオリティ。切れ間なく展開される独創性MAXのヴァイブスを叩きつけ、麻天狼を弄ぶように篭絡して行きます。

間はない FreakyでPeaky
それがFling Posse

これこそが彼ららしさ。戦いの中でも決して見せることを忘れない。見る者を興奮させるパフォーマンスこそが彼らの持ち味です。

どうせならばはしゃぎながら
勝っちゃうのがPosse

完全にそのペースに飲み込まれた麻天狼は、為す術なくその攻撃に翻弄されて。いよいよもって神宮寺寂雷が地に背中をつき、ここで勝負は完全に決した。

かのように見えました。たった1人のイレギュラーを除いては。

"キレる中年"

「誰のおかげだと…?」

寂雷と一二三が戦いに身を置く中で、完全に戦意を喪失したかのように見えた観音坂独歩。彼が最後の最後で急に立ち上がり、Fling Posseの前に立って見せたのです。

独歩は膝を抱えてうずくまっていたことでここまでの攻撃によるダメージを最小限に抑え、最後のポッセの攻撃に関しては受けることなく終えている状態でした。

そもそもラップバトルは精神干渉による戦いです。戦う気力を失って心を閉ざした者には、満足に攻撃が届かないのも当然でしょう。そしてそうなった者は攻撃することも適わずにドロップアウト。誰もがそう思うからこそ、独歩はここまで存在をスルーされ続けてきました。

「俺のおかげだろォー!!!!?!!!」

しかし彼はそうではない。心を閉ざしている間にもひたすらに自己否定を重ね続け、他者を受け入れず"自分の世界"に引き篭もる。

そうして溜まりに溜まった(自分で溜めに溜めた)ストレスは限界を超えてオーバーロードし、爆発した感情をそのまま他者の心を抉り取る刃に替えて行使します。

どいつもこいつもあの阿呆も
言いたい事言いやがって
本当なんだよ

紡がれる言葉はその場と全く関係がない、普段から周りに向かって溜めている積年の恨みつらみ。それを無関係の相手に投げつける姿はさながらにバーサーカー。

脳がヤバい
どうかホント神様
このままじゃ俺価値がない

何の話をしているのか、この場の誰もが分からない。きっと本人さえも何を言っているのか理解していない。

端にも棒にもかからねえんだしもう
自暴自棄だしもう 次ミスったら死のう♪

それ故に防御不能反撃不能。
ただ彼から溢れ出るヴァイブスだけがダイレクトに目の前に相手に降り注ぎ、意味も分からないままにインパクトを与えます。

とか言うと思ったかよ
独歩さん舐めんな!もう!

その絶叫は極太のレーザー光に変わり、Fling Posseの3人を一撃で穿ち貫きました。高い技術を持つポッセの3人も予測不可能な超激情をぶつけられて、耐え切れずに場外へと吹き飛びます。

「その他ない」と言わざるを得ないような、圧倒的高火力による一撃。麻天狼の隠し玉は、最良のタイミングで火を噴いたのでした。

死ぬには良い日だ

「こ、こんな勝ち方…?」と思われても仕方がない。劣勢を一瞬で逆転させる1ショットキル。

「もう帝統ったら…。ちっともラッキーじゃないじゃんか」
「すまん、俺が全部使っちまったのかなぁ」

しかしこの結末は早々に独歩を戦力外だと決めつけて放置した、ポッセの"見誤り"がもたらしたものでもある(※初見殺しも甚だしい)そう考えると、倒れ伏す3人はこの結果を受け入れざるを得ないのでしょう。

「まさかラストにどんでん返しがあるとは」
「も~!これじゃカッコ悪い~!!」

ただ、川の字になって3人で光を見上げるその時間は、どこか彼らFling Posseらしく見えました。

負けは負けで悔しくないと言えば嘘になる。けれどその場のことはその場のこと受け入れて、必要以上に執着せずに。すぐに切り替えて明日へ向かって歩き出す。それが彼らの体現するエンターテインメントの世界です。

「…死ぬには良い日だ」

仲間の信頼を受けて"自分"を優先し、後悔のない選択肢を選び取った飴村乱数。

運も未来もない彼の元にも、想起する明日がきっとあるはずです。

悪しきには罰が与えられるべきで、彼がしたことは決して許されることではないのでしょう。しかし悪人にも更正する権利があり、幸福を掴む自由が存在する。

全てを終えたその先で、彼の元にも人並みの幸福が訪れることを願って止みません。

おわりに

因縁のラップバトルに終始した前回から異なり、『ヒプマイ』の世界観設定を利用した情報量でゴリ押しされたエンタメ回。

色々なファンの方がいる作品ですから、この結末や描き方には色々な意見があると思います。その中でアニメから見えるこのエピソードの面白さを、真摯に読解して文章に起こしてみました。

10,000字近くになるのは『ヒプアニ』では初ですね。大変でしたが、達成感のある内容になったと思います。楽しんで頂けていたら幸いです。

さぁ次回はいよいよ決勝戦のスタートと思われます。勝ち上がった2チームが繰り広げる頂上決戦。その一部始終を見届けて行きましょう。それでは。

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はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。美少女よりイケメンを好み、最近は主に女性向け作品の感想執筆を行っている。キャラの心情読解を得意とし、1人1人に公平に寄り添った感想で人気を博す。その熱量は初見やアニメオリジナル作品においても発揮され、某アニメでは監督から感謝のツイートを受け取ったことも。

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