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【超感想】『SK∞ エスケーエイト』第10~12話 無限に拡がる「楽しい」を求めて 共に滑る"少年"たちの物語

第12話 俺たちの無限大!

「一生一度の大切な日。正装が相応しい」
「はぁ…。結婚式、ですか?」

「…違う。そう…それは――」

スケートは楽しい。
自分たちは楽しいから滑っている。

それ以外に滑る理由なんてなく、きっと愛抱夢もそれを楽しんでいる同志なんだろう。

未来ある少年たちには見えていない世界があります。そこで歩み続けるしかない大人たちがいることを、彼らはまだ知りません。

光に満ち満ちたその物言いは、愛抱夢というスケーターに向けるにはあまりにも残酷すぎました。

求めても手に入らない可能性への渇望。それを埋められないままに、不完全な大人になってしまう人が大勢います。神道愛之介もその1人。彼にとってスケートは、もうただ楽しいから滑っていられるものではありません。

大人になれば滑る理由がいる。そしてそれは、"滑らない理由"を上回るものでなければならない。

誰が何と言おうと、外にいる人間が納得しなくとも、自分だけは絶対に必要だと言える理由。それがあるから神道愛之介は、愛抱夢という皮を被ってまでスケートに興じるのです。

そんな彼がランガとの決戦の場に選んだ場所。それは危険すぎて禁止となった「S」の始まりのステージでした。

「今夜は…この装いが相応しいと思ってね。
旅立ちの日だから…」

これが2人の世界の始まりで、同時に独りの世界の終わり。全ての始まりとなった場所で、全ての終わりと新たな始まりを迎える。それが愛抱夢の望んだシチュエーションなのでしょう。

「そう…誰にも邪魔されない…2人だけの――」

故にこれはエンゲージではなくヒューネラル。
現世からの解脱を2人で成し遂げるために愛抱夢の用意した式典。荘厳な空気を引き裂くように鳴り響いたコインの音が、その始まりを告げました。

「――世界へ」

どうでもいいが"その装い"は本当に"正装"で"スーツ"なのか?

2人だけの世界

スケートは「誰と滑るか」が重要。

そう感じ取ったランガは、確かに愛抱夢とのビーフに胸の高鳴りを感じていました。レキと共にあることが重要ではあるとは言え、ランガにとって愛抱夢もまた、興奮を煽られる相手であることに違いはないようです。

最初から本気を出した愛抱夢は、ランガをも凌ぐ凄まじい滑走を披露。得意のエアーでさえ上回れてしまえば、総合力で上を行くであろう愛抱夢の方に圧倒的な分があります。

当然のごとく得意のラフプレーも健在ですが、今回はそれを利用してランガの前を取るという異例の立ち回りを披露。ランガとは戦闘不能による勝利ではなく、純粋な滑走による勝負を望んでいるのが分かります(※ただしラフプレーも1つの愛情表現として扱われている節はある)

常にランガの前を取り続ける愛抱夢と、それに食らいつこうと必死に滑走するランガ。その滑りに一切の妥協はなく、命懸けのコースに命懸けの滑りをプラスした異次元のレースを展開します。リスクを恐れてスピードを落とせば即勝負は終了。そんなことをこの2人が望むわけもありません。

実力者たちを含めた全ての観戦者がその滑りに感嘆し、驚愕し、畏怖する。そんな絶対に誰にも届かない領域へと、2人は高め合って到達しようとしていました。

「ようこそ…!2人だけの世界へ!!」

それこそが愛抱夢の夢見た世界。独りぼっちだった彼が迎える、2人で到達する理想郷。それが今、彼らの眼の前を覆い尽くします。

スケートは――楽しい!!

2人が到達したのは、ゾーンと呼ばれる意識領域。現実でも一流のスポーツ選手が実際に入ると言われている、極限の集中状態によってスポーツに関係するものだけが認知されるようになる現象のことです。

しかし必ずしも整備されたコースを走るわけではないスケートにおいて、ゾーンに入ることは死のリスクに直結します。外側を絶対に意識しなければならないスポーツ故に、その領域に至ることはできない。仮にできるとしても、至ってはいけないとさえ言えます。

そして愛抱夢が目指していたのは、このゾーンの中に2人で入ることでした。

恐らく彼は独りで別世界のを知ってしまったことで、実力ある他者を巻き込んでリスクのある滑走を続けていたのでしょう。

愛抱夢にとってはその成就だけが全て。そこに至れば大いなる幸せが待っている。だからこそ他者を痛めつけるのは、(彼の中では)道理に適った行為。幸せへ向かう過程に過ぎなかったと言うことです。

スケートにだけ集中でき、他の者が一切排除された環境。それは愛抱夢にとって、これ以上ないほど理想的な場所に違いありません。

ですがランガにとってはそうではないのです。

ランガがボードに乗るのは、誰かと一緒に滑るのが楽しいから。全てから隔離された何もない真っ白な世界で、彼が心躍ることは決してない。

それが愛抱夢とのあまりにも大きな齟齬でした。

「そうだ…スケートは――楽しい!!」

レキの作ってくれた新しいボード。
それがランガにとってのキーとなって、彼はゾーンから現実の世界へと戻ることを選びました。

山を滑り降りることにかけては、一日の長がある。父親と共に培ったその技術で、決して滑り降りられないはずの断崖絶壁を滑り降りるランガの表情。強く大きな「FUN」を感じさせるそれは、周りを巻き込んで新たな光を生み出します。

「ランガくん…どこだ?どこにいる!?」

ランガは愛抱夢と共にゾーンに入れる実力者ではあったけれど、そこに"幸福"を見出せる存在ではなかった。

「君も僕の前から消えるのか!?ランガァー!!」

ようやく辿り着いた場所に、手を繋いで共に在れる存在を招き入れた。その夢が実現した先にも、孤独を解消できるだけの結果は待っていてくれなかった。その結末が、愛抱夢をどれだけ絶望させたことでしょうか。

「やはり最初から、イヴなんていなかったんだ…。
どこにも…。僕のそばには、誰も…」

ゾーンのその先へ

「そっちは楽しくない!」

ゾーンの中で現実にうちひしがれる愛抱夢。その彼の手を改めて掴んだのは、彼が望んで止まなかった最愛のパートナー(仮)です。ゾーンではなく現実の世界で、ランガは愛抱夢と向き合うことを選んだのです。

誰も見られなかった愛抱夢の世界で、ランガは彼の本心を垣間見ました。そんなランガにだからこそできることがある。かけられる言葉と、救える心があります。

「俺が教えるよ…!スケートの楽しさを!」

仲間と共に滑る楽しさを、愛抱夢の元に。

神道愛之介の過去を知らないランガは、愛抱夢が経験した絶望を知り得ることはありません。彼がそれを一度失った人間であることに、思いを馳せることは決してない。故にまっすぐ、理不尽に、無責任にその想いを伝えることができます。

「本当は求めているんだ…自分以外の誰かを!」

失ったものは取り戻せない。それを知ってしまったから、新しいものに固執する。仲間なんて曖昧なものではなく、共に添い遂げてくれるたった1人の人生のパートナーを探したい。

その想いを形作っていたのが孤独からの逃避であること、それが自分が捨てたと思っていた感情によるものだと無理矢理に理解させられた。そうして神道愛之介は、激情に身を任せるしかなくなりました。

「誰も僕を理解できない…!
理解できはしない!!」

その彼の鬱屈した感情を、ランガは決してかわすことはありません。それを真っ向から受け止めて。勝ちにだけ固執する愛抱夢を見捨てることなく、スケートを愛する者として共に在ろうと戦いました。

2人で共に崩れ落ちた後も、2人で共に立ち上がる。手を差し伸べて、共に滑ろうと声をかける。

スケートは2人で一緒に滑るから楽しい。独りでは、楽しくない。たとえ相手が理解し難い"大人"であっても、それだけは絶対に変わることはない。

ランガはその気持ちを信じて、愛抱夢を受け入れるのです。

「楽しさなど何の役にも立たない!
勝たなければ認められない!愛されないィ!」

どれだけ否定しようとも、どれだけ無意味だと断じようとも。誰にもその気持ちは否定できない。

「僕は、勝つ!!」

何故なら最初は皆、スケートが大好きで始めるに違いないから。何の利益もない行いだからこそ、それを始める理由だけは絶対に共通しています。

スケートが好きで、楽しくて、仕方がない。幼き日、忘れていた初めてボードに触れた時の記憶。夢中になってそれに励み続けた過去の自分は、誰にだって否定できるものではありません。

「――――!!」

まっすぐな少年たちは、まだまだその気持ちだけを信じて前に進んでいます。特にまだスケートを始めて1年と満たないランガに灯る希望の光は、100%前向きな気持ちで満たされていると言っても過言ではないのかもしれません。

愛抱夢という男は、そんなランガの輝きにこそ魅了された。実力だけではなく、自分の持ち続けていたかったそれを、誰よりもまっすぐ表現していたその少年に。その可能性も、きっとこの物語には存在していると思います。

そして最後にこのビーフの結果を分けたもの。それは共に歩む仲間の存在です。

孤独に滑るしかできなかった愛抱夢と、最初から最後までずっと自分を信じ続けてくれるパートナーがいたランガ。ゴール前に飛び出した彼の存在が、きっと最終的な勝敗を分ける要因でした。

勝つのはもちろん嬉しいことだけれど、重要なのはそれだけじゃない。その気持ちを分かち合える相手がいること、喜んでくれる仲間がいること。それこそが、彼らがスケート共に在ることを選ぶ理由なのです。

そんなたくさんの仲間たちに勝利を祝福されるランガを見遣ることもなく、愛抱夢は静かにその場を後にしました。

ですが、愛抱夢もきっとここからやり直せる。
彼らと同じ光を持てるスケーターに、再び成長することができるはずです。

『エスケーエイト』の物語は一旦ここで終了ですが、この先の愛抱夢は全く違った存在になっていくだろう。そんな希望を残してくれたと感じています。

お前は、一生…僕の犬だ

熱狂渦巻いたトーナメントを終え、またそれぞれの現実を歩み始めたキャラクターたち。

全てが解決したわけではありませんが、前向きに変わったことは数多くある。そんな希望ある一幕が、エンディングが描かれました。シャドウはもう少し良い思いさせてやっても良かったんじゃないかな~!?

進退が危ぶまれた愛之介は、政治家人生も極めて円滑に進めることができていました。なんと一連の不祥事全てが、元から老いぼれを追放することを目的とした彼のクレバーな作戦だったのです。

ただ恐らく、大きく異なっていたのは菊池忠の処遇でしょう。

愛之介は今回の件に乗じて、最初は忠も同時に目の前から消そうと考えていたと思っています。目の前の邪魔者を一気に処理する計画を、彼は立てていたはずです。

それがトーナメントの結果を経て大きく路線変更。忠は傍に残したまま、他の者を利用することで同じ結果を手中に収める手筈を整えました。昔と同じように、彼を横に並び立つ仲間として認め、再び共に歩くことを決めたのでしょう。

「首輪を外してやると思ったか?
お前は、一生…僕の犬だ」

もちろん関係性に日和ることはなく。その物言いは極めて強い上下関係を感じさせるものでしたが。その言葉の裏に潜んでいる愛之介の本心には、きっと忠も気付いたに違いありません。

ここからまた、新しい2人の関係性が始まる。2人の晴れやかなやり取りからは、そんな未来を予見させました。

「…はい!」

そんな顔をしろとは言っていない。

一方のランガは、全てを終えた後で暦と2人密かに集まっていました。

カナダから日本に来て掴んだ新しい幸せの形。一度失った心を取り戻させてくれた、掛け替えのないパートナー。

時に屈託なく笑い合う友人でもあり、時に教え導いてくる先生でもある。辛い時は傍で応援してくれる仲間でもあり、それが今では、共に横並びで競い合うライバルにもなりました。

「やっと約束を果たせるな」
「あぁ、俺たちの幻の決勝戦」

たくさんの想いと喜び、幸せを届けてくれたパートナーを前にして、多くの言葉はいりません。DAPを交わし、気持ちを揃えて。見据えるのは先に待ち受ける1つのゴールのみです。

「手ぇ抜くなよ」
「そっちこそ」

滑り出せば同じスケーター同士。変な遠慮も妙な気遣いも必要なく。ただただ前に向かって滑り降りるのみ。何故なら、そこには絶対に同じ想いが存在していることを理解しているからです。

「「Ready…!!」」

スケートは楽しい。
2人で滑れば、独りの時の何倍も。

その想いを決して忘れることなく、彼らの人生はこれからも続いて行きます。

おわりに

クライマックスを飾る3話を1つの記事にということで、かなり気合を入れてお届けしました。

終盤戦はスケートとしてもより疾走感溢れるシーンが増えただけでなく、積み重なってきた関係性も的確に炸裂する、エモい展開が光る素晴らしいストーリーでした。その良いところをできる限り濃縮して感じられる記事に仕立てたつもりです。楽しんで頂けていたら幸いです。

ノーマークで視聴を始めたら、最後にはすっかり『エスケーエイト』の世界の虜になってしまいました。頼む、4クール51話やってくれという気持ちでいっぱいです。

今回は愛抱夢という極めて強烈なキャラクターを中心にストーリーが練られていたこともあり、キャラクターの一側面しか見られなかったように感じています。今後彼らがどのように成長し、どういったやり取りを繰り広げてくれるのか。妄想が膨らんで仕方がありません。

諸々の兼ね合いあり、中盤からの記事執筆。3記事という少ない数ではありましたが、密度を高めてこれたと思います。できる限り作品を盛り上げる一助になりたく頑張りました。次があれば1話から書きたいです。よろしければ、今後とも「超感想エンタミア」とワタクシはつをよろしくお願い致します。

『エスケーエイト』は今までにない全く新しい作風の作品。それでいて往年の名作を感じさせるノリは、見ていて本当に気持ちが良かったです。

製作スタッフの皆々様方、楽しい作品をありがとうございました。

いつかこの先が見られる時を来るのを願って、『エスケーエイト』の記事執筆を終えたいと思います。絶対2期ある。俺は信じてる。是非よろしくお願いします。

それでは超感想エンタミアのはつでした。またどこかでお会い致しましょう。

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はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。美少女よりイケメンを好み、最近は主に女性向け作品の感想執筆を行っている。キャラの心情読解を得意とし、1人1人に公平に寄り添った感想で人気を博す。その熱量は初見やアニメオリジナル作品においても発揮され、某アニメでは監督から感謝のツイートを受け取ったことも。

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