アニメ 単話感想

【超感想】『Fairy蘭丸』禁忌其の拾弐「愛」想い合いが生む大団円 僕はあなたをずっと笑顔にしたい!

2021年6月30日

引用元:https://f-ran.jp/story12.html

蘭丸の閉ざされた記憶を利用し、女王の元へと辿り着いたチルカ。その圧倒的な戦闘力で禁忌解放した産土の夭聖 豊穣を退け、女王の後を追いかけます。

一方で駆けつけたBAR Fの4人の仲間たちの呼びかけで目覚めた蘭丸は、かつてのバディとのやり取りで全てを思い出したようです。

蘭丸の先導で女王の空間へと移動した5人の目の前には、めちゃくちゃに破壊された謁見の間と満身創痍の豊穣が。彼が若き頃に女王から手渡された時計を預かり、今正に窮地の只中にいる女王を救うため立ち上がりました。

彼女の思念体が座している人間界の一室は、「Winter Tri-Angels」の事務所として使われていたビルの一角。長き時を過ごす場所としてそこを選び離れなかったことは、彼女の中に存在する過去への未練と後悔、執着を感じさせます。

内に秘めた負の感情をチルカに見出された女王からは、今まで5人が打ち払ってきたのと同じ邪念が放出されています。とは言え、立場と見方が変われば邪魂を持つ者が救済対象になることもある。それは過去の物語でもしっかりと明示されていた情報です。

女王が本心に何を抱えているかは分からない以上、彼女は5人にとって真っ先に守るべき対象には違いありません。そしてそれは、自分たちの選定者たる豊穣より託された使命でもあります。

「「「「「あなたの心、いただきます!!」」」」」

使命を通じて成長し、全ての背景を聞かされた彼らにもう1つとして迷いはありません。今最も助けなければならない女性のために、その羽根を羽ばたかせて宙を舞います。

「禁忌解放!愛!爛漫!
光輝の夭聖 蘭丸!」

「火焔の夭聖 焔!」

「水潤の夭聖 うるう!」

「卉樹の夭聖 樹果!」

「金鋼の夭聖 寶!」

「「「「「降臨!!」」」」」

明かされる真実

豊穣を失い独り身でチルカに刃を向けられても、女王はその余裕を失うことはありませんでした。相対するチルカも必要以上に彼女を威嚇することはなく、互いに相手を嘲笑う時間が続きます。

それは互いに、望んだ者が自分の元にやってくることが分かっているからこその余裕だったのでしょう。そして彼らが脳内に思い浮かべている「望んだ者」とは、共通した夭聖でもありました。

かつて共に愛著集めに奔走したベテルギウス。
女王にとっては最も信頼のおける臣下、チルカにとっては愛憎渦巻くかつての相棒。それぞれがそれぞれの思惑を秘めたまま、彼がやってくるのを待ち望んでいました。

勝負のために伏せておいた切札は、チルカに一枚上手があったようです。

女王にとってベテルギウスは記憶を失い蘭丸となってなお、自身への配下へと下った忠実な臣下です。過去にシリウスの反乱を退けた彼であれば、再び自分に刃を向いた"チルカ"を打倒するなどわけもないこと。女王はそう思い込んで、彼の到来を待っていました。

「何を勘違いしている…」

ですがチルカは"そうではない真実"を知る立場でした。かつての反乱では刃を交わし合い、プロキオンから自身を遠ざけて怨みの行く先を閉ざした寵愛と憎しみの対象。そのベテルギウスが最期に何を果たしたのか、その一部始終を見届けていたからです。

「知らないのか?この国を滅ぼしたのは俺じゃあない…」

それは今の女王が抱える最も大きな正の感情。心の依代にしていた信頼の全てを破壊する事実です。同時に、チルカが蘭丸の記憶に「女王への憎しみ」が存在していることを把握していた理由ともなるものでした。

高らかに哄笑し、自身の思惑通りに事が進んでいることを主張したチルカは、"真実"を履き違えている愚かな仇敵にその"現実"を突きつけます。

「この国を滅ぼしたのは――ベテルギウスなのだぞ!!」

繁栄を築き上げたかつての王国。それを完膚なきまでに破壊し尽くしたのはシリウスではなく、在りし日のベテルギウスであると。

壊れるベテルギウス

「こんなことなら…最初から…最初から…
何も無ければ良かったのに!!」

シリウスを玉座から退けたベテルギウスは、鍔迫り合いを続けながらその心情を吐露していました。第11話にて公開されたやり取りは女王目線のものでしかなく、2人のやり取りにはその続きが存在していたのです。

夭聖の仲間よりも愛する人間を選んで堕天を決め、その後は"愛"に裏切られて失意の道を辿ったシリウス。第11話の1つ1つのシーンでのベテルギウスの反応や行動から、彼がシリウスに並々ならぬ執着を持っていることは感じ取ることができました。

彼にとって、シリウスとの別れはそれだけ辛く険しい経験だったのでしょう。さらにそのシリウスはあろうことかプロキオンを憎むべき仇と思い込み、共に歩んだ彼女を亡き者にしようと憎悪を向けることになりました。

「どうして…僕は君が…!君のことが…!!」

そしてその"女王"を護るために、ベテルギウスは相棒に刃を向けなければなりません。それが当時の彼の使命、立場に縛られた彼が絶対に避けて通れない道でもありました。

何より、ベテルギウスは共に"3人"で歩んだ時間を愛していたのだと思います。

プロキオンもまた彼にとっては大切な想い人の1人であり、その彼女が他でもないもう1人の想い人と殺し合う惨劇がその場には体現されていました。

「なんだ…!?何だと言うんだ…!?」

それを止めるためには、自身が彼と殺し合わなければならない。ただ1人1人の愛が交錯した結果、全てのものが傷付け合う"最悪"。自身は何の落ち度もないままにその渦中に追いやられたことで、ベテルギウスはその心を保つことができなくなってしまいました。

(※劇中後半では蘭丸の口から全ての真実が明かされますが、それらは蘭丸が昏睡中に鍵穴の奥で知ったと解釈できるため、この時点で知っていたとは断定できません。ですがもし知っていたとしたら、ベテルギウスのこの時の心中はさらに大変なことになっているでしょう)

「愛って…なんだ…?」

シリウスの問いかけに答えることなく、自身の中の感情に折り合いをつけることさえできず。ベテルギウスは感情の趣くままに築き上げた王国を破壊して回りました。

「愛って何なんだぁーーーー!!」

それこそが第1話冒頭にて公開されたあのシーン。
わけも分からず意味不明なアニメを見せられたあの日あの場所に、ようやく視聴者たる我々は帰ってきました。

今なら全てを理解できるし、してあげられる気がする。そうは言っても突きつけられた現実は厳しく、その心中の全てを慮ってあげることは到底できはしないでしょう。

分かっていても、知識を得たところで届かないものがあるのは事実です。それでも人の鬱屈した感情は、真に強い気持ちで寄り添ってくれる人によって解放されるものである。そう作中で誰よりも強く教えてくれたのは、他でもない阿以蘭丸に違いありません。

故に僕らは、彼らが辿り着くその行く末を見届けなければならないのだと。そうこのシーンのベテルギウスを見て、強く感じさせられることになりました。

邪魂化した女王

最も信頼していた臣下の1人が、実は自分の王国を破滅させた張本人であった。その事実は女王にとっても全く予想外のものだったようです。

ここまで保ってきた余裕も消え失せ、蘭丸を糾弾するも思い通りの反応は得られません。記憶を取り戻した蘭丸は無言による肯定で女王の願いを拒絶。それが彼女を完全に邪魂化させるトリガーとなってしまいます。

かりそめの姿は激情によって弾き飛ばされて、隠されていた彼女の本性が露わとなります。そしてこれこそが、チルカが最初から思い描いていた女王への復讐の形だったのでしょう。

頭が高い!私に跪け!
ひれ伏せ!跪け!絶対服従せよ!
家畜は黙って働いてれば良いんだよォ!!

邪魂に囚われた人間たちは、ヘブンズ空間では口にしていなかった悪しき本音を吐露する姿が印象的でした。それになぞらえば完全に邪魂化した女王――プロキオンもまた、その悪性が増長されて表出していると捉えるべきでしょう。

つまり地位を持って下々の者を使う立場になったプロキオンが、他者を暴圧してでも意のままにしたいと思っているのは間違いないということです。チルカによって見出された悪性は本物であり、そういう意味では彼女は夭聖たちが打破すべき対象の1人だと言えるのです。

邪魂化した女王は、チルカではなく助けにきたはずの蘭丸たちにその暴威を奮います。従わせられる相手を、まず無理矢理にでも従わせたいという意思がそこにはあったのかもしれません。

「舐めよ。女王の勅命である」

絶対服従の力で5人の膝を折り土下座を強要。それでもなお抵抗の意思を見せる蘭丸には、より大きな屈辱を与えにかかります。

蘭丸は言われた通りに女王の足を舐めましたが、それは彼女の力によって強制されたという雰囲気ではありませんでした。むしろそうすることに何ら抵抗感を持っていないかのように、自然な態度で彼女の言うことを聞いたのです。

裏切者のベテルギウスを服従させたことで、その時点では女王の嗜虐心は強く満たされたはずです。しかしどうにも、この時蘭丸が彼女に向けていた感情は、反抗や反逆とは異なるものであったのではないかと思います。

足を舐めた後も、蘭丸の女王を見遣る顔に変わりはありません。この展開を予期していたかのように、そしてその上で女王の心を見透かすのように。彼は彼のやり方で女王の心に寄り添おうとしていると感じました。

「なんじゃその眼は…?」

強い命令は相手の身体を硬直させ、縛り上げ、その者の意思と関係なく従わせることが可能です。しかしそのやり方では、人の"心"を本当の意味で導くことはできません。

「ッ!その眼はやめよ!!」

そして女王が本心から求めていたのは、心から自分に寄り添ってくれる存在でしょう。自分のことを慮り、自分の信頼を絶対に裏切らない。そんな相手を望めば望むほどに、彼女はその地位と権威を利用した方法を取ろうとしてしまいます。

この時の女王の心はとても脆く、とても弱い状態です。
その上で自身の力が「最も信頼していた1人」に通じていないことを目の当たりにすれば、平常心を保つことなどできるわけがありません。

「オン マヤルタ ハリキラ」

絶対服従の力は綻び、5人は一時的に彼女の暴圧から解放されます。その隙を蘭丸が見逃すわけもなく。

豊穣から受け取った産土の力を用いて、揃った五行の力で女王の邪念を解放しにかかります。

「「「「「心根解錠!!」」」」」

ですがたった1つのミスで全てを終わらてしまうほど、女王も間抜けな為政者ではありません。

こんな時、万が一彼らが自分に牙を剥いてきた時に備えて、彼女が仕込んでいた内部分裂に繋がる因子。それがこのタイミングで卑しくも意味を持つことになったのです。

火焔と水潤

「知らんのか焔…!」

「お前の父を死に追いやったのは…
うるうの母なのだぞ!!」

前回にて豊穣の話を遮り、うるうが焔に「自分の口から伝える」といった真実。火焔族と水潤族にまつわる一連の問題は、結局共有が為されないままにこの決戦を迎えてしまいました。

焔の心が乱れたことにより、女王の心根解錠は失敗。吹き飛ばされた焔とうるうは、闇の中2人でその真実と改めて向き合うこととなりました。

解決を先延ばしにしたとは言えず、状況的にこうなるのは致し方ないことだったと言えるでしょう。彼らが思っている以上に事が進むのが早かったため、2人が改めて会話をする機会が用意されることはなかったわけですから。

それに豊穣は恐らくこの展開を考慮した上で、うるうの気持ちを尊重して口を閉ざしたのだと思います。それはつまり、彼らは自身でこの問題を良い形で収めることができると信じたということ。それに期待するだけのものを、彼らが感じ取っていたということです。

「すまないうるう…俺を…殺してくれ…!」

目覚めたうるうが見たものは、告げられた真実によって自身に激情を燃やす焔の姿ではありませんでした。

そればかりか、彼はそれを「自分の父がうるうの母が死ぬ原因を作ってしまった」と解釈し、うるうの心を想って独り滂沱の涙を流していたのです。

父は何も悪いことはしていない。身を徹して1人の女性を救い出そうとしただけだ。そう思ってきた焔も、それが原因で母を亡くして傷付いた者がいることを知りました。そしてそれが、他でもない自分のファミリーの一員だったとも分かってしまいました。

その時に焔にとって最も強く心を動かしたのは、自分たちが傷付いたことではなく。「自分たちが取り返しのつかないことをした」という、贖罪の気持ちの方でした。

そしてうるうももう、その焔の態度に憎しみの感情を抱くことはありません。歩照瀬焔は本心からそう思い、自分たちのことを想ってくれる奴だと分かっているからです。

水は火が好きだよ

「…そういうところに母は惹かれたんだろう。その暑苦しいところに」

なんて馬鹿馬鹿しく、道理に合わない考え方だろう。けれどそうやって、自分以外の誰かの幸せを願い続ける者がいたからこそ。多くの人と夭聖が、どうしようもない窮地から"心"を救われてきたのでしょう。

「母は…死ぬ前に心の温かさに触れることができて、最後は笑みを浮かべて死んで行ったんだ」

心を救われた上での死と、心を救われないままの生。どちらも最後に行き着くのが死であるのならば、本人が幸福を掴めたことにこそ意味があるのかもしれない。

ずっと理解できなかった母親の最期の姿。そこに隠された1つの"心"の形に、この使命の中でうるうは気付くことができました。そしてその答えに至らせてくれたのは他でもない、目の前にいる歩照瀬焔の熱い想いでした。

「父は…武力では誰も幸せにできないことを、悩んでいた。火の力は、簡単に相手を傷付ける…」

理由も聞かず、多くを求めず、ただ相手の心に寄り添って救い出すことだけを考える。その全く論理性のない行いで、確かに溶かされていくものがある。それをあの時、清怜うるうは確かに感じ取っていたのです。

「法で心は縛れない。しかし優しい火のぬくもりは…心を温める」

だから今度は、自分が彼の心を救う番。彼は難しいことを考えて、答えを出せるタイプではない故に。分かりやすく伝わる言葉で、言い換えてやる必要がある。

規律を守っているだけでは果たせない"救い"。
それに尽力しようとする彼らの行いがどれほど意義深く、"個人"の想いに寄り添ってきたか。

強く激しい火の力を、正しく奮うことができていたかを。

「うるう…」

それを認めてあげられるのは、実際に助けられたうるうにしかできないことです。そしてそうしてあげたいと思うほどに、うるうもまた焔のことを大切に想っていてくれました。

その交流によって彼らの抱えていた問題は、より深く強い関係性を築く礎へと昇華します。

「…焔」

強い火を優しく包み込み、過度に燃え広がらないように収めることもまた水の役割です。

火焔の行き過ぎた力が誰かを傷付ける前に止められるとしたら、それは水潤の律する力以外にはあり得ません。

「これで許してやる」
「あ、あぁ…」

交わし合った口付けの意味は、1つの解釈に断定しない方が良いでしょう。ここから始まる彼らの本当の付き合いは、どんな未来にも行き着く可能性を秘めている。そう感じさせてくれたからです。

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はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。美少女よりイケメンを好み、最近は主に女性向け作品の感想執筆を行っている。キャラの心情読解を得意とし、1人1人に公平に寄り添った感想で人気を博す。その熱量は初見やアニメオリジナル作品においても発揮され、某アニメでは監督から感謝のツイートを受け取ったことも。

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